人材育成やキャリア面談を行うとき、「本人が何をしたいのか」「何ができるのか」「会社として何を期待しているのか」がうまく整理できないことはないでしょうか。
社員の成長を考えるうえでは、本人の希望だけを聞いても不十分です。
一方で、会社の期待だけを押しつけても、本人の納得感や主体性は高まりにくくなります。
そこで役立つのが、Will / Can / Mustです。
Will / Can / Mustは、本人のやりたいこと、できること、求められていることを整理し、キャリア開発や人材育成につなげるフレームワークです。
人事面談、1on1、キャリア面談、配置検討、育成計画、目標設定など、幅広い場面で活用できます。
この記事では、Will / Can / Mustの意味、使い方、具体例、注意点までを、初心者向けにやさしく整理して解説します。
この記事でわかること
- Will / Can / Mustとは何か
- Will / Can / Mustは何に使うのか
- Will、Can、Mustの意味
- Will / Can / Mustの使い方
- Will / Can / Mustの具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から完璧なキャリアプランを作る必要はありません。まずは「Will / Can / Mustは、やりたいこと、できること、求められることを整理するための型だ」とつかめれば十分です。
Will / Can / Mustとは?
Will / Can / Mustとは、キャリアや人材育成を考えるときに、本人の希望、能力、期待役割を整理するフレームワークです。
Will / Can / Mustは、次の3つで構成されます。
- Will:やりたいこと、本人の希望
- Can:できること、能力や強み
- Must:やるべきこと、期待されている役割
やさしく言うと、Will / Can / Mustは「本人が何をしたいのか、何ができるのか、会社や組織から何を求められているのか」を整理する方法です。
たとえば、ある社員が「新規事業に関わりたい」と考えているとします。
これがWillです。
その社員が「顧客ヒアリングが得意」「技術知識がある」「資料作成ができる」なら、それがCanです。
会社として「既存事業の改善テーマを推進してほしい」「若手の育成も担ってほしい」と期待しているなら、それがMustです。
この3つを整理することで、本人にとって納得感があり、組織にとっても意味のある育成や配置を考えやすくなります。
一言でいうと、Will / Can / Mustは、本人の希望と能力と組織期待をつなげるためのキャリア開発フレームワークです。
Will / Can / Mustは何に使うのか
Will / Can / Mustは、人材育成やキャリア開発で使います。
特に、本人の希望と会社の期待をすり合わせたい場面に向いています。
Will / Can / Mustは、次のような場面で活用できます。
- キャリア面談を行うとき
- 1on1で成長テーマを話すとき
- 人材育成計画を作るとき
- 配置や異動を検討するとき
- 目標設定を行うとき
- 強みや課題を整理するとき
- 上司と部下の期待値をすり合わせるとき
- 自分のキャリアを見直すとき
たとえば、上司が部下に対して「もっとリーダーシップを発揮してほしい」と考えている場合でも、本人が何を望んでいるかを聞かずに役割を与えると、納得感が生まれにくいことがあります。
逆に、本人の希望だけを聞いても、今の能力や組織からの期待と合っていなければ、現実的な育成計画にはなりません。
Will / Can / Mustを使うと、本人と組織の接点を探しやすくなります。
どんな人に向いているか
Will / Can / Mustが向いているのは、次のような人です。
- 人材育成を担当している人
- 部下との1on1を行う管理職
- キャリア面談を行う人事担当者
- 自分のキャリアを整理したい人
- 配置や育成方針を考える人
- 若手や中堅社員の成長支援をしたい人
- 組織期待と本人希望をすり合わせたい人
Will / Can / Mustは、人事制度だけでなく、日常の上司と部下の対話にも使いやすいフレームワークです。
Will / Can / Mustの基本的な考え方
Will / Can / Mustの基本的な考え方は、3つの重なりを探すことです。
Willだけが強くても、CanやMustとつながっていなければ、仕事として実現しにくい場合があります。
Canだけがあっても、本人のWillがなければ、やらされ感が強くなることがあります。
Mustだけを押しつけると、本人の主体性や成長意欲が下がることがあります。
そのため、Will、Can、Mustを別々に見るのではなく、重なりを見ることが重要です。
それぞれの意味を整理すると、次のようになります。
- Will:本人がやりたいこと
- Can:本人ができること
- Must:組織から求められること
理想は、Will、Can、Mustが重なる領域を見つけることです。
たとえば、本人が「顧客課題を解決する仕事をしたい」と考えていて、実際に「顧客ヒアリングや提案資料作成が得意」で、会社も「顧客起点の新サービス企画を進めてほしい」と期待している場合、3つが重なります。
このような領域は、本人の納得感と組織成果の両方につながりやすくなります。
一方で、3つが完全に重なることは少ないかもしれません。
その場合は、どこにギャップがあるのかを見つけ、育成や経験機会で埋めていくことが大切です。
Will / Can / Mustの使い方
Will / Can / Mustは、次の流れで使うとわかりやすいです。
手順1 Willを整理する
最初に、本人のWillを整理します。
Willとは、本人がやりたいこと、興味があること、将来挑戦したいことです。
Willを考えるときは、次のような問いが役立ちます。
- どのような仕事に興味があるか
- 今後どのような経験を積みたいか
- どのようなテーマにやりがいを感じるか
- どのような働き方をしたいか
- 将来どのような人材になりたいか
- 過去に熱中した仕事は何か
- どんなときに達成感を感じるか
Willは、最初から明確でなくても構いません。
本人がまだ言語化できていない場合もあります。
その場合は、過去の経験や興味のある仕事を振り返りながら、少しずつ整理します。
手順2 Canを整理する
次に、本人のCanを整理します。
Canとは、本人ができること、得意なこと、保有しているスキルや経験です。
Canを考えるときは、次のような問いが役立ちます。
- どのような業務経験があるか
- 得意な仕事は何か
- 周囲からよく頼られることは何か
- どのようなスキルを持っているか
- これまで成果を出した仕事は何か
- 苦手だが伸ばしたい能力は何か
- 今後身につけるべきスキルは何か
Canは、本人の自己評価だけでなく、上司や周囲からの評価も参考にすると整理しやすくなります。
本人が自分の強みに気づいていないこともあります。
逆に、本人が得意だと思っていることと、組織が評価していることにズレがある場合もあります。
手順3 Mustを整理する
次に、Mustを整理します。
Mustとは、組織や上司から期待されていること、役割として求められていることです。
Mustを考えるときは、次のような問いが役立ちます。
- 現在の役割で求められている成果は何か
- 組織として期待している役割は何か
- 今後担ってほしい仕事は何か
- チームの課題に対して何を期待されているか
- 会社の方針や戦略とどう関係しているか
- 評価上、何が重要視されているか
- 次の等級や役職に向けて何が必要か
Mustは、上司や会社側が一方的に押しつけるものではありません。
本人に対して、なぜその役割が期待されているのかを説明することが大切です。
手順4 3つの重なりとギャップを見る
Will、Can、Mustを整理したら、3つの重なりを確認します。
重なっている部分は、本人の意欲、能力、組織期待が合っている領域です。
この領域は、育成テーマや目標設定にしやすいです。
一方で、ギャップも見ます。
たとえば、本人がやりたいWillはあるが、Canが不足している場合は、育成や経験機会が必要です。
CanはあるがWillが弱い場合は、本人がやりがいを感じられる意味づけが必要かもしれません。
Mustはあるが本人のWillとずれている場合は、期待役割の説明や将来のキャリアとの接続が必要です。
ギャップを見ることで、次に何を支援すべきかが見えやすくなります。
手順5 育成計画や目標に落とし込む
最後に、Will / Can / Mustを育成計画や目標に落とし込みます。
たとえば、次のように考えます。
- Willに近い業務機会を与える
- Canを伸ばすための研修やOJTを用意する
- Mustを達成するための具体的な目標を設定する
- 1on1で定期的に進捗を確認する
- 必要な経験や支援を整理する
Will / Can / Mustは、整理して終わりではありません。
実際の仕事、目標、経験、学習につなげることが重要です。
Will / Can / Mustの具体例
ここでは、「若手社員のキャリア面談」を例に、Will / Can / Mustの使い方を見てみます。
例 若手社員のキャリア面談で使う場合
前提として、入社3年目の若手社員と上司がキャリア面談を行うとします。
まず、Willを整理します。
本人は、「将来的には新規事業や企画の仕事に関わりたい」「顧客課題を見つける仕事に興味がある」と話しました。
次に、Canを整理します。
本人は、現在の業務でデータ整理、資料作成、顧客ヒアリング補助、社内調整を経験しています。
上司から見ると、資料作成は得意ですが、課題設定や関係者を巻き込む力はまだ伸ばす余地があります。
次に、Mustを整理します。
現在の部署では、既存サービスの改善提案を進めること、顧客の声を集めて改善テーマを出すことが期待されています。
この3つを重ねると、「顧客の声をもとに既存サービスの改善提案を行う」というテーマが見えてきます。
これは、本人のWillである企画志向にも近く、現在のCanも活かせます。
さらに、組織のMustにも合っています。
育成計画としては、顧客ヒアリングに同席する、改善提案資料を作成する、小さな改善プロジェクトを担当する、上司との1on1で課題設定を振り返る、という流れが考えられます。
別の例 中堅社員の育成で使う場合
中堅社員の育成にも、Will / Can / Mustは使えます。
ある中堅社員が、「専門性を深めたい」というWillを持っているとします。
Canとしては、専門領域の知識、後輩への指導経験、社内調整力があります。
Mustとしては、組織から「若手育成」と「専門領域のナレッジ共有」を期待されています。
この場合、本人の専門性を深めるだけでなく、勉強会の企画、社内マニュアル作成、若手向けOJTの設計などを育成テーマにできます。
本人のWillである専門性向上と、組織のMustである人材育成をつなげる形です。
具体例でわかるポイント
Will / Can / Mustの具体例からわかるポイントは、本人と組織の接点を探すことです。
- 本人のやりたいことを聞く
- 本人のできることを整理する
- 組織の期待役割を明確にする
- 3つの重なりを探す
- ギャップを育成テーマにする
- 具体的な経験機会に落とし込む
Will / Can / Mustは、面談を単なる希望確認で終わらせず、育成や配置につなげるために役立ちます。
Will / Can / Mustを使うメリット
Will / Can / Mustを使うメリットは、本人の納得感と組織の期待をつなげやすくなることです。
人材育成では、本人の希望だけでも、会社の都合だけでもうまくいきにくい場合があります。
Will / Can / Mustを使うと、本人の気持ち、能力、役割期待をバランスよく整理できます。
主なメリットは、次の通りです。
- キャリア面談がしやすくなる
- 本人の希望を整理しやすい
- 強みや課題を見つけやすい
- 組織期待を伝えやすい
- 育成テーマを決めやすい
- 目標設定に納得感を持たせやすい
- 配置や役割検討に活用しやすい
特に、1on1や人材育成面談では、会話の軸として使いやすいフレームワークです。
Will / Can / Mustを使うときの注意点
Will / Can / Mustを使うときに注意したいのは、本人のWillを軽く扱わないことです。
よくある失敗は、次のようなものです。
- Mustばかりを押しつける
- Willを聞くだけで具体的な支援につなげない
- Canを本人の自己申告だけで判断する
- 組織期待をあいまいに伝える
- 3つのギャップを放置する
- 一度整理して終わりにする
特に注意したいのは、Will / Can / Mustを使っているように見えて、実際には会社のMustを本人に納得させるだけになってしまうことです。
それでは、本人の主体性は高まりにくくなります。
Willを丁寧に聞き、Canを客観的に整理し、Mustの背景を説明することが大切です。
また、Willは時間とともに変わることがあります。
定期的な面談で更新していくことが重要です。
関連フレームワークとの違い
Will / Can / Mustと関連するフレームワークには、MBO、OKR、コンピテンシーモデル、9ボックスなどがあります。
それぞれの違いを簡単に整理します。
- Will / Can / Must
本人の希望、能力、期待役割を整理するフレームワークです。キャリア開発や育成面談に向いています。 - MBO
目標管理制度の考え方です。個人や組織の目標を設定し、評価やマネジメントに活用します。 - OKR
挑戦的な目標と主要な成果を設定するフレームワークです。組織やチームの方向性をそろえる場面に向いています。 - コンピテンシーモデル
高成果者の行動特性を整理するフレームワークです。Canや期待行動を具体化する場面で役立ちます。 - 9ボックス
成果とポテンシャルの2軸で人材を分類するフレームワークです。配置や育成対象の検討に使われます。
Will / Can / Mustは、本人との対話やキャリア整理に向いています。
一方で、目標管理にはMBOやOKR、人材分類には9ボックス、行動特性の整理にはコンピテンシーモデルを組み合わせると効果的です。
Will / Can / Mustはどんな場面で使うと効果的か
Will / Can / Mustは、特に次のような場面で効果的です。
- キャリア面談を行うとき
- 1on1で成長テーマを話すとき
- 人材育成計画を作るとき
- 目標設定の納得感を高めたいとき
- 配置や異動を検討するとき
- 若手や中堅社員の成長支援をしたいとき
- 本人希望と組織期待をすり合わせたいとき
Will / Can / Mustは、社員一人ひとりのキャリアと組織の方向性をつなぐ場面に向いています。
一方で、組織全体の目標管理にはOKRやKPI/KGI、評価制度の設計にはMBOやコンピテンシーモデルを組み合わせるとよいでしょう。
まとめ
Will / Can / Mustとは、本人のやりたいこと、できること、組織から求められていることを整理するフレームワークです。
Willは、本人の希望や興味です。
Canは、本人の能力、経験、強みです。
Mustは、組織や上司から期待されている役割です。
この3つを整理することで、キャリア面談、人材育成、配置検討、目標設定を進めやすくなります。
大切なのは、3つの重なりを探すことです。
本人のWillだけでも、組織のMustだけでもなく、本人の能力や成長可能性も含めて考えることで、納得感のある育成テーマを作りやすくなります。
まずは、自分自身や部下について、「やりたいこと」「できること」「求められていること」をそれぞれ書き出してみましょう。
その重なりを見ることが、キャリア開発や人材育成の第一歩になります。