社員のモチベーションを考えるとき、「なぜ人によって仕事への意欲が違うのか」「給与や安定だけではやる気につながらないのはなぜか」「成長したい人と安心を求める人をどう理解すればよいのか」と感じることはないでしょうか。
人は、さまざまな欲求を持っています。
安心して働きたい。
仲間に受け入れられたい。
認められたい。
成長したい。
自分らしく力を発揮したい。
このような人間の欲求を段階的に整理する考え方として有名なのが、マズローの欲求階層です。
マズローの欲求階層は、人間の欲求を、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階で整理するフレームワークです。
人材育成、マネジメント、組織開発、キャリア支援、エンゲージメント向上、職場改善などで活用できます。
この記事では、マズローの欲求階層の意味、使い方、具体例、注意点までを、初心者向けにやさしく整理して解説します。
この記事でわかること
- マズローの欲求階層とは何か
- 5つの欲求の意味
- マズローの欲求階層は何に使うのか
- マズローの欲求階層の使い方
- マズローの欲求階層の具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から心理学の理論として難しく考える必要はありません。まずは「人のやる気や行動の背景には、段階の異なる欲求がある」とつかめれば十分です。
マズローの欲求階層とは?
マズローの欲求階層とは、人間の欲求を段階的に整理した考え方です。
一般的には、次の5段階で説明されます。
- 生理的欲求
- 安全欲求
- 社会的欲求
- 承認欲求
- 自己実現欲求
やさしく言うと、マズローの欲求階層は「人はまず生きるための基本的な欲求を満たし、その後に安心、つながり、承認、成長を求める」と考えるモデルです。
たとえば、生活や健康が脅かされている状態では、仕事で自己実現を考える余裕は生まれにくいかもしれません。
職場で孤立している状態では、成長や挑戦よりも、まず安心して関われる人間関係が必要かもしれません。
一方で、基本的な安心や所属感が満たされている人は、認められたい、成長したい、自分らしく力を発揮したいという欲求を持ちやすくなります。
一言でいうと、マズローの欲求階層は、人のモチベーションや行動の背景を理解するためのフレームワークです。
マズローの欲求階層は何に使うのか
マズローの欲求階層は、人の欲求やモチベーションを理解するために使います。
特に、人材育成、マネジメント、キャリア支援、職場改善、エンゲージメント向上などで役立ちます。
マズローの欲求階層は、次のような場面で活用できます。
- 社員のモチベーションを理解したいとき
- 職場の不満や不安の背景を整理したいとき
- 人材育成やキャリア支援を考えたいとき
- 若手社員の定着支援をしたいとき
- 管理職のマネジメントを改善したいとき
- エンゲージメント向上施策を考えたいとき
- 働きがいや成長実感を高めたいとき
- チーム内の安心感や承認を高めたいとき
たとえば、社員が「もっと成長したい」と感じている場合、自己実現欲求や承認欲求が関係しているかもしれません。
一方で、「上司に相談しにくい」「職場に居場所がない」と感じている場合、社会的欲求や安全欲求が満たされていない可能性があります。
マズローの欲求階層を使うと、社員の状態を単に「やる気がある、ない」で見ずに、どの欲求が満たされていないのかを考えやすくなります。
どんな人に向いているか
マズローの欲求階層が向いているのは、次のような人です。
- 人材育成を担当している人
- 組織開発を担当している人
- 管理職やチームリーダー
- 社員のモチベーションを高めたい人
- 若手や中堅社員のキャリア支援を行う人
- エンゲージメント向上に取り組む人
- 職場環境や人間関係を改善したい人
マズローの欲求階層は、人事担当者だけでなく、部下を持つ管理職やチーム運営を行う人にも使いやすい考え方です。
5つの欲求の基本
マズローの欲求階層では、人間の欲求を5つに分けて考えます。
ここでは、それぞれの意味を初心者向けに整理します。
生理的欲求
生理的欲求とは、生きるために必要な基本的な欲求です。
たとえば、食事、睡眠、休息、健康などが含まれます。
職場で考えると、過度な長時間労働、睡眠不足、休憩が取れない状態、健康を損なう働き方は、生理的欲求を脅かします。
この段階が満たされていないと、仕事への意欲や成長を考える余裕は生まれにくくなります。
安全欲求
安全欲求とは、安心して生活し、働きたいという欲求です。
職場では、雇用の安定、心理的安全性、ハラスメントのない環境、明確なルール、健康と安全への配慮などが関係します。
たとえば、いつ怒られるかわからない、失敗を強く責められる、評価基準が不透明、職場にハラスメントがあるといった状態では、安全欲求が満たされにくくなります。
安心して働ける土台がなければ、挑戦や成長にも向かいにくくなります。
社会的欲求
社会的欲求とは、人とつながりたい、仲間に受け入れられたいという欲求です。
職場では、チームへの所属感、同僚との関係、上司との関係、相談しやすさ、協力関係などが関係します。
たとえば、職場で孤立している、相談相手がいない、チームの一員だと感じられない場合、社会的欲求が満たされにくくなります。
人は、安心してつながれる関係があることで、仕事に前向きに取り組みやすくなります。
承認欲求
承認欲求とは、人から認められたい、自分の価値を感じたいという欲求です。
職場では、成果を認められること、努力を見てもらえること、役割を任されること、感謝されること、評価されることなどが関係します。
たとえば、頑張っても誰にも認められない、成果が正当に評価されない、存在感を感じられない状態では、承認欲求が満たされにくくなります。
承認欲求が満たされると、社員は自分の仕事に意味や誇りを感じやすくなります。
自己実現欲求
自己実現欲求とは、自分の能力を発揮し、自分らしく成長したいという欲求です。
職場では、挑戦機会、成長機会、キャリア開発、専門性の追求、創造的な仕事、社会や顧客への貢献などが関係します。
たとえば、自分の強みを活かせる仕事に取り組む、難しいテーマに挑戦する、自分の理想に近づくような経験を積むことは、自己実現欲求につながります。
自己実現欲求は、人材育成やキャリア開発を考えるうえで重要な視点です。
マズローの欲求階層の基本的な考え方
マズローの欲求階層の基本的な考え方は、人の行動やモチベーションの背景には、複数の欲求があるということです。
職場では、社員の状態を「やる気がある」「やる気がない」だけで見てしまうことがあります。
しかし、実際には、やる気が出ない背景に、さまざまな欲求の未充足がある場合があります。
たとえば、過労で体調が悪い人に対して、「もっと成長意欲を持とう」と言っても響きにくいでしょう。
上司に相談できず不安を抱えている人に、「挑戦しよう」と言っても、まず安心感が必要かもしれません。
職場で孤立している人には、成長機会よりも、まずチームとのつながりが必要な場合もあります。
一方で、基本的な安心や関係性が整っている人には、より大きな役割、挑戦機会、専門性の成長、社会貢献の実感がモチベーションになることがあります。
このように、マズローの欲求階層を使うと、社員の状態に応じて、どの欲求に注目すべきかを考えやすくなります。
マズローの欲求階層の使い方
マズローの欲求階層は、次の流れで使うとわかりやすいです。
手順1 社員やチームの状態を把握する
まず、社員やチームがどのような状態にあるのかを把握します。
いきなり施策を考えるのではなく、何が満たされていて、何が不足しているのかを見ることが大切です。
たとえば、次のような問いが役立ちます。
- 過度な疲労や長時間労働はないか
- 安心して働ける環境か
- 相談しやすい人間関係があるか
- チームへの所属感があるか
- 成果や努力が認められているか
- 成長機会があるか
- 自分の仕事に意味を感じているか
社員アンケート、1on1、面談、職場観察などを通じて状態を把握します。
手順2 満たされていない欲求を考える
次に、どの欲求が満たされていないのかを考えます。
たとえば、疲弊している社員が多い場合、生理的欲求や安全欲求に課題があるかもしれません。
職場で孤立感が強い場合は、社会的欲求に課題があるかもしれません。
頑張っても認められないという声が多い場合は、承認欲求に課題があります。
成長実感がない場合は、自己実現欲求に課題がある可能性があります。
大切なのは、表面的な言葉だけで判断しないことです。
「やる気が出ない」という言葉の裏に、疲労、不安、孤立、承認不足、成長機会不足など、どの要因があるのかを確認します。
手順3 低い階層の欲求から整える
次に、必要に応じて低い階層の欲求から整えます。
たとえば、長時間労働で疲弊している状態では、まず休息や業務量の見直しが必要です。
心理的安全性が低い職場では、まず安心して相談や報告ができる環境づくりが必要です。
チーム内で孤立している人が多い場合は、関係性づくりや対話の場が必要です。
基本的な土台が整っていない状態で、承認や自己実現だけを強調しても、効果が出にくい場合があります。
手順4 承認と成長機会を作る
基本的な安心や関係性が整ってきたら、承認や成長機会を意識します。
承認欲求を満たすには、成果や努力を具体的に認めることが重要です。
たとえば、次のような方法があります。
- 成果を言葉で認める
- 努力や工夫を見つけて伝える
- 感謝を伝える
- チーム内で良い行動を共有する
- 役割を任せる
- 小さな成功体験を作る
自己実現欲求を支えるには、成長機会や挑戦機会を作ることが大切です。
たとえば、次のような方法があります。
- 新しいテーマを任せる
- 専門性を伸ばす機会を作る
- キャリア面談を行う
- 本人のWillを確認する
- 仕事の意味や顧客価値を伝える
- 学習機会を提供する
承認と成長の両方を意識すると、社員の前向きな意欲につながりやすくなります。
手順5 個人差を踏まえて支援する
最後に、欲求には個人差があることを踏まえます。
同じ職場にいても、何に安心を感じるか、何に承認を感じるか、どのような成長を求めるかは人によって異なります。
ある人は、専門性を深めることに自己実現を感じるかもしれません。
別の人は、チームに貢献することに意味を感じるかもしれません。
また別の人は、安定した働き方や家庭との両立を重視しているかもしれません。
そのため、マズローの欲求階層は、全員を同じように扱うためではなく、一人ひとりの状態を理解するために使うことが大切です。
マズローの欲求階層の具体例
ここでは、「若手社員の定着支援」を例に、マズローの欲求階層の使い方を見てみます。
例 若手社員の定着を支援する場合
前提として、入社3年以内の若手社員の離職が増えているとします。
まず、若手社員の状態を把握します。
面談やアンケートを行うと、次のような声が出ました。
- 仕事量が多く、疲れている
- ミスをしたときに強く責められるのが怖い
- 職場に相談できる人が少ない
- 自分の仕事が評価されているかわからない
- 将来どのように成長できるのか見えない
この場合、複数の欲求が関係しています。
疲労や過重労働は、生理的欲求に関係します。
ミスを責められる不安は、安全欲求に関係します。
相談できる人が少ないことは、社会的欲求に関係します。
評価されているかわからないことは、承認欲求に関係します。
将来の成長が見えないことは、自己実現欲求に関係します。
改善策としては、まず業務量の見直しや相談しやすい体制づくりが必要です。
次に、メンター制度や1on1でつながりを作ります。
そのうえで、上司が成果や努力を具体的に承認し、キャリア面談で成長の見通しを一緒に考えます。
このように、マズローの欲求階層を使うと、若手社員の離職要因を多面的に整理できます。
別の例 管理職のマネジメント改善に使う場合
管理職がチームのモチベーションを高めたい場合にも、マズローの欲求階層は使えます。
たとえば、チームメンバーが発言しない、改善提案が出ない、挑戦する人が少ない状態だとします。
このとき、いきなり「もっと主体的に動こう」と言っても効果が薄いかもしれません。
メンバーが失敗を恐れているなら、安全欲求が満たされていない可能性があります。
意見を言っても聞いてもらえないと感じているなら、承認欲求が満たされていないかもしれません。
チームに居場所がないと感じているなら、社会的欲求に課題があります。
管理職は、まず安心して発言できる場を作り、意見を受け止め、良い行動を認めることから始めます。
そのうえで、挑戦的なテーマや成長機会を与えると、自己実現につながりやすくなります。
具体例でわかるポイント
マズローの欲求階層の具体例からわかるポイントは、人の状態を段階的に見ることです。
- 疲労や健康状態を見る
- 安心して働けるかを見る
- チームにつながりを感じているかを見る
- 認められている実感があるかを見る
- 成長や自己実現の機会があるかを見る
社員のモチベーションは、単純なやる気の問題ではありません。
どの欲求が満たされているか、どの欲求が満たされていないかを考えることが大切です。
マズローの欲求階層を使うメリット
マズローの欲求階層を使うメリットは、人のモチベーションを多面的に理解できることです。
社員が前向きに働けないとき、その背景にはさまざまな欲求の未充足があります。
マズローの欲求階層を使うと、どこに課題があるのかを整理しやすくなります。
主なメリットは、次の通りです。
- 社員のモチベーションを理解しやすい
- 職場不満の背景を整理しやすい
- 若手や中堅社員の定着支援に使いやすい
- 管理職のマネジメント改善に役立つ
- エンゲージメント向上施策を考えやすい
- キャリア支援や成長機会を設計しやすい
- 1on1や面談の問いを作りやすい
マズローの欲求階層は、職場改善や人材育成を考えるときの基本的な視点として使いやすいフレームワークです。
マズローの欲求階層を使うときの注意点
マズローの欲求階層を使うときに注意したいのは、すべての人が必ず同じ順番で欲求を満たすと決めつけないことです。
よくある誤解や失敗は、次のようなものです。
- 欲求は必ず下から順番に満たされると考える
- 全員に同じ施策を当てはめる
- 低い階層の欲求を軽視する
- 自己実現だけを強調する
- 個人差を見ない
- 職場の実態を確認せずに判断する
- 仕事の意味づけだけで不満を解決しようとする
実際には、人によって大切にする欲求は異なります。
また、複数の欲求が同時に関係することもあります。
たとえば、成長したいという自己実現欲求を持ちながら、同時に職場の安全や人間関係に不安を抱えている人もいます。
マズローの欲求階層は、厳密な順番を決めるためではなく、人の状態を理解するための視点として使うことが大切です。
関連フレームワークとの違い
マズローの欲求階層と関連するフレームワークには、ハーズバーグの二要因理論、エンゲージメントモデル、心理的安全性、Will / Can / Mustなどがあります。
それぞれの違いを簡単に整理します。
- マズローの欲求階層
人間の欲求を、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階で整理する理論です。人のモチベーション理解に向いています。 - ハーズバーグの二要因理論
仕事の満足と不満足を、動機づけ要因と衛生要因に分けて考える理論です。職場改善やモチベーション施策に向いています。 - エンゲージメントモデル
社員が仕事や組織に前向きに関わっている状態を整理するフレームワークです。組織状態の把握に向いています。 - 心理的安全性
安心して意見、質問、失敗を共有できる状態を示す考え方です。安全欲求や社会的欲求と関係します。 - Will / Can / Must
本人の希望、能力、組織期待を整理するフレームワークです。自己実現やキャリア支援を考えるときに役立ちます。
マズローの欲求階層は、人間の基本的な欲求を理解するためのフレームワークです。
ハーズバーグの二要因理論で職場要因を整理し、エンゲージメントモデルで組織状態を把握し、Will / Can / Mustで個人のキャリア支援につなげると実務で活用しやすくなります。
マズローの欲求階層はどんな場面で使うと効果的か
マズローの欲求階層は、特に次のような場面で効果的です。
- 社員のモチベーションを理解したいとき
- 若手社員の離職防止を考えたいとき
- 職場不満の背景を整理したいとき
- 心理的安全性やチームの所属感を高めたいとき
- 承認や成長機会を設計したいとき
- 管理職のマネジメントを改善したいとき
- 人材育成やキャリア支援を考えたいとき
マズローの欲求階層は、人の状態を大きく理解したい場面に向いています。
一方で、具体的な職場改善策を考える場合は、ハーズバーグの二要因理論やエンゲージメントモデルと組み合わせると効果的です。
まとめ
マズローの欲求階層とは、人間の欲求を、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階で整理するフレームワークです。
生理的欲求は、食事、睡眠、休息、健康などの基本的な欲求です。
安全欲求は、安心して生活し、働きたいという欲求です。
社会的欲求は、人とつながり、仲間に受け入れられたいという欲求です。
承認欲求は、人から認められたい、自分の価値を感じたいという欲求です。
自己実現欲求は、自分の能力を発揮し、自分らしく成長したいという欲求です。
マズローの欲求階層を使うと、社員のモチベーションや職場課題を多面的に理解しやすくなります。
大切なのは、人を一律に見るのではなく、一人ひとりの状態や欲求の違いを踏まえることです。
まずは、自分の職場について、「安心して働けているか」「所属感があるか」「承認されているか」「成長機会があるか」を確認してみましょう。
それが、マズローの欲求階層を使った人材育成や職場改善の第一歩になります。
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