業務改善や工程改善に取り組むとき、「どこに時間がかかっているのかわからない」「一部の作業だけ改善しても全体が良くならない」「待ち時間や手戻りが多い」と感じることはないでしょうか。
仕事の流れは、1つの作業だけで成り立っているわけではありません。
前工程から後工程へ情報やモノが流れ、その途中で加工、確認、承認、待ち時間、移動、手戻りなどが発生します。
そのため、業務改善では、個別作業だけでなく、工程全体の流れを見ることが大切です。
そんなときに役立つのが、バリューストリームマップです。
バリューストリームマップは、製品やサービスが顧客に届くまでの流れを見える化し、価値を生む作業とムダを整理するためのフレームワークです。
製造現場の改善でよく使われますが、事務、営業、開発、研究、物流、カスタマーサポート、教育などにも応用できます。
この記事では、バリューストリームマップの意味、使い方、具体例、注意点までを、初心者向けにやさしく整理して解説します。
この記事でわかること
- バリューストリームマップとは何か
- バリューストリームマップは何に使うのか
- 工程全体の流れを見る基本的な考え方
- バリューストリームマップの使い方
- バリューストリームマップの具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から専門的な記号を完璧に使う必要はありません。まずは「バリューストリームマップは、工程全体の流れとムダを見える化するための型だ」とつかめれば十分です。
バリューストリームマップとは?
バリューストリームマップとは、製品やサービスが顧客に届くまでの流れを見える化するフレームワークです。
英語ではValue Stream Mapと呼ばれ、VSMと略されることもあります。
バリューストリームとは、顧客に価値を届けるまでの一連の流れのことです。
製造業であれば、原材料の受け入れ、加工、検査、出荷までの流れです。
事務業務であれば、依頼受付、確認、承認、処理、報告までの流れです。
やさしく言うと、バリューストリームマップは「仕事の入口から出口までを見える化し、どこで価値を生み、どこでムダが発生しているかを見る図」です。
たとえば、ある申請業務で、実際の処理時間は30分なのに、完了まで5日かかっているとします。
この場合、作業そのものよりも、待ち時間や承認待ちが大きな問題かもしれません。
バリューストリームマップを使うと、こうした流れ全体の問題を見つけやすくなります。
一言でいうと、バリューストリームマップは、工程全体の流れとムダを見える化する業務改善フレームワークです。
バリューストリームマップは何に使うのか
バリューストリームマップは、業務や工程全体の流れを改善したいときに使います。
特に、リードタイムが長い、待ち時間が多い、工程間で滞留している、手戻りが多いといった問題に向いています。
バリューストリームマップは、次のような場面で活用できます。
- 工程全体の流れを見える化したいとき
- どこで時間がかかっているか確認したいとき
- 待ち時間や滞留を減らしたいとき
- 価値を生む作業とムダを分けたいとき
- リードタイムを短縮したいとき
- 部門間の連携を改善したいとき
- TOCや業務改善の前段階で全体像を見たいとき
- 改善前後の流れを比較したいとき
たとえば、受注から出荷までに時間がかかっている場合、どの工程の作業時間が長いのか、どこで待ち時間が発生しているのか、どこに在庫や仕掛かりがたまっているのかを整理できます。
事務業務でも、申請から承認までの流れを見える化すれば、確認待ち、承認待ち、差し戻し、情報不足などのムダを見つけやすくなります。
どんな人に向いているか
バリューストリームマップが向いているのは、次のような人です。
- 業務改善を担当している人
- 品質管理や生産管理に関わる人
- 工程改善を進めたい人
- リードタイムを短縮したい人
- 部門間の連携を改善したい人
- TOCやリーン改善を学びたい人
- 業務全体の流れを見える化したい人
バリューストリームマップは、個別作業の改善よりも、全体の流れを改善したいときに特に役立ちます。
バリューストリームマップの基本的な考え方
バリューストリームマップの基本的な考え方は、工程全体を見て、価値を生む作業とムダを分けることです。
仕事には、顧客にとって価値を生む作業と、そうでない作業があります。
たとえば、製品を加工して性能を高める作業は価値を生みます。
顧客の問い合わせに必要な回答を作成する作業も価値を生みます。
一方で、待ち時間、探す時間、手戻り、不要な確認、過剰な在庫、移動、重複入力などは、顧客から見ると価値を生みにくい作業です。
バリューストリームマップでは、次のような情報を整理します。
- 工程の流れ
- 各工程の作業時間
- 待ち時間
- 在庫や仕掛かり
- 情報の流れ
- 手戻り
- 部門間の受け渡し
- 顧客に価値を生む作業とムダ
ここで重要なのは、個別の作業だけを速くしようとしないことです。
ある工程だけを改善しても、後工程で待ち時間が発生していれば、全体のリードタイムはあまり短くならないかもしれません。
バリューストリームマップでは、全体の流れを見ながら、どこを改善すれば全体に効くのかを考えます。
バリューストリームマップの使い方
バリューストリームマップは、次の流れで使うとわかりやすいです。
手順1 対象プロセスを決める
まず、見える化したいプロセスを決めます。
対象は、製造工程、受注処理、問い合わせ対応、月次報告書作成、検査工程、承認フロー、研修運営など、さまざまです。
最初は範囲を広げすぎないことが大切です。
たとえば、「会社全体の業務」では広すぎます。
「受注から出荷まで」「問い合わせ受付から回答完了まで」「申請受付から承認完了まで」のように、始まりと終わりを明確にします。
手順2 現状の流れを書き出す
次に、現状の流れを書き出します。
理想の流れではなく、実際に今どう動いているかを確認します。
たとえば、問い合わせ対応であれば、受付、内容確認、担当者振り分け、調査、回答作成、上長確認、顧客回答、記録という流れがあるかもしれません。
ここで大切なのは、現場の実態を見ることです。
マニュアル上はシンプルでも、実際には確認待ちや差し戻しが多い場合があります。
現場ヒアリングや作業観察を通じて、実際の流れを把握します。
手順3 作業時間と待ち時間を確認する
次に、各工程の作業時間と待ち時間を確認します。
バリューストリームマップでは、作業そのものにかかる時間だけでなく、工程間の待ち時間も重要です。
たとえば、ある承認業務で、資料作成は30分、確認は15分、承認処理は10分だとします。
しかし、確認待ちが2日、承認待ちが3日あるなら、全体のリードタイムは非常に長くなります。
改善すべきなのは、作業時間そのものではなく、待ち時間かもしれません。
作業時間と待ち時間を分けて見ることで、改善ポイントが見えやすくなります。
手順4 価値を生む作業とムダを分ける
次に、各工程が顧客にとって価値を生んでいるかを考えます。
ここでいう顧客は、外部顧客だけではありません。
社内の次工程や利用者も顧客と考えられます。
たとえば、顧客に必要な回答を作る作業は価値を生みます。
一方で、情報不足による差し戻し、同じ内容の二重入力、不要な承認、待ち時間、探す時間はムダになりやすいです。
ムダを見つけるときには、次のような視点が役立ちます。
- 待っている時間はないか
- 手戻りはないか
- 不要な確認はないか
- 重複入力はないか
- 情報の受け渡しで遅れはないか
- 在庫や仕掛かりがたまっていないか
- 次工程に不完全な情報を渡していないか
価値を生む作業とムダを分けることで、改善の方向性が見えやすくなります。
手順5 改善後の理想状態を考える
最後に、改善後の理想状態を考えます。
現状のマップを見ながら、どのムダを減らせるか、どの工程をまとめられるか、どの待ち時間を短くできるかを検討します。
たとえば、承認待ちを減らすために、承認基準を明確にする、軽微な案件は担当者判断にする、確認者を減らす、資料テンプレートを整えるといった対策が考えられます。
改善後の流れを描くことで、目指す姿が共有しやすくなります。
バリューストリームマップは、現状を描いて終わりではありません。
現状と理想状態の差を見て、改善につなげることが大切です。
バリューストリームマップの具体例
ここでは、「問い合わせ対応業務」を例に、バリューストリームマップの考え方を見てみます。
例 問い合わせ対応のリードタイムを短縮する場合
前提として、顧客からの問い合わせに対する回答が遅く、改善したいとします。
まず、対象プロセスを「問い合わせ受付から回答完了まで」と設定します。
現状の流れを整理すると、次のようになりました。
問い合わせ受付、内容確認、担当者振り分け、担当者による調査、回答案作成、上長確認、顧客回答、対応履歴記録です。
次に、それぞれの作業時間と待ち時間を確認します。
受付は5分、内容確認は10分、調査は30分、回答案作成は20分、上長確認は10分、顧客回答は5分だとします。
作業時間だけを見ると、合計は80分です。
しかし実際には、担当者振り分け待ちで半日、調査開始まで1日、上長確認待ちで2日かかっているかもしれません。
この場合、問題は作業時間そのものよりも、工程間の待ち時間にあります。
改善策として、問い合わせの自動振り分け、FAQ整備、回答テンプレート、上長確認が必要な条件の明確化、軽微な問い合わせは担当者判断にする、といった対策が考えられます。
このように、バリューストリームマップを使うと、どこで時間が失われているかが見えやすくなります。
別の例 受注から出荷までを改善する場合
製造や物流では、受注から出荷までの流れを見える化できます。
受注、在庫確認、製造指示、加工、検査、梱包、出荷という流れがあるとします。
各工程の作業時間は短くても、工程間で在庫や仕掛かりがたまっている場合、全体のリードタイムは長くなります。
たとえば、加工は1時間、検査は30分、梱包は20分でも、検査待ちで2日、出荷待ちで1日かかっているかもしれません。
この場合、検査工程や出荷調整がボトルネックになっている可能性があります。
改善策として、検査前の情報準備、優先順位ルール、検査員の配置見直し、出荷計画の平準化などが考えられます。
具体例でわかるポイント
バリューストリームマップの具体例からわかるポイントは、作業時間だけでなく待ち時間を見ることです。
- 工程全体の流れを見る
- 作業時間と待ち時間を分ける
- 価値を生む作業とムダを分ける
- 部門間の受け渡しを見る
- ボトルネックや滞留を見つける
- 改善後の流れを考える
個別作業を改善する前に、全体の流れを見える化することが重要です。
バリューストリームマップを使うメリット
バリューストリームマップを使うメリットは、工程全体の流れとムダを見える化できることです。
業務改善では、個別作業だけを見ていると、全体の問題を見落とすことがあります。
バリューストリームマップを使うと、入口から出口までの流れを整理し、どこで時間やムダが発生しているかを確認できます。
主なメリットは、次の通りです。
- 工程全体の流れを把握しやすい
- 待ち時間や滞留を見つけやすい
- 価値を生む作業とムダを分けやすい
- リードタイム短縮のポイントが見える
- 部門間の受け渡し問題に気づきやすい
- 改善前後の比較がしやすい
- チームで全体像を共有しやすい
バリューストリームマップは、部分最適ではなく全体最適を考えるために役立ちます。
特に、複数の部門や工程が関わる業務で効果を発揮します。
バリューストリームマップを使うときの注意点
バリューストリームマップを使うときに注意したいのは、図を作ることが目的になってしまうことです。
よくある失敗は、次のようなものです。
- 現状ではなく理想の流れを書いてしまう
- 作業時間だけを見て待ち時間を見ない
- 現場の実態を確認していない
- 図が細かくなりすぎて使いにくい
- 改善策につながっていない
- 一部門だけで作り、全体の流れが見えていない
バリューストリームマップでは、実際の流れを見ることが大切です。
マニュアル上の流れではなく、現場で本当に起きている待ち時間、手戻り、確認待ち、滞留を把握する必要があります。
また、最初から細かく書きすぎると、全体像が見えにくくなります。
初心者は、まず大きな流れをつかみ、その後で必要な部分を詳しく見るとよいでしょう。
関連フレームワークとの違い
バリューストリームマップと関連するフレームワークには、SIPOC、業務フロー図、TOC、ECRSなどがあります。
それぞれの違いを簡単に整理します。
- バリューストリームマップ
工程全体の流れ、待ち時間、価値を生む作業とムダを見える化する方法です。リードタイム短縮や全体最適に向いています。 - SIPOC
Supplier、Input、Process、Output、Customerで業務の大枠を整理するフレームワークです。改善対象の範囲を決める入口に向いています。 - 業務フロー図
作業の流れ、担当者、分岐、判断ポイントを詳しく整理する図です。詳細な手順確認に向いています。 - TOC
全体の成果を制限しているボトルネックに注目し、重点的に改善する考え方です。バリューストリームマップで流れを見た後に使いやすいです。 - ECRS
なくす、まとめる、順番を変える、簡単にする視点で改善策を考えるフレームワークです。バリューストリームマップで見つけたムダへの対策に使えます。
バリューストリームマップは、工程全体の流れとムダを見るためのフレームワークです。
SIPOCで大枠を整理し、バリューストリームマップで流れとムダを見える化し、TOCでボトルネックを特定し、ECRSで改善策を考えると、業務改善の流れが作りやすくなります。
バリューストリームマップはどんな場面で使うと効果的か
バリューストリームマップは、特に次のような場面で効果的です。
- リードタイムを短縮したいとき
- 工程間の待ち時間を減らしたいとき
- 業務全体の流れを見える化したいとき
- 部門間の受け渡しを改善したいとき
- 仕掛かりや滞留を減らしたいとき
- ボトルネックを見つけたいとき
- 全体最適で業務改善を進めたいとき
バリューストリームマップは、複数の工程や部門が関わる業務に向いています。
一方で、単独作業の細かな改善には、ECRSや5Sのほうが使いやすい場合があります。
また、最初に業務の大枠を整理したい場合はSIPOC、詳細手順を確認したい場合は業務フロー図を使うとよいでしょう。
まとめ
バリューストリームマップとは、製品やサービスが顧客に届くまでの工程全体の流れを見える化するフレームワークです。
作業時間、待ち時間、情報の流れ、価値を生む作業、ムダを整理することで、全体の改善ポイントを見つけやすくなります。
業務改善では、個別作業だけを速くしても、全体のリードタイムが短くならないことがあります。
そのため、工程間の待ち時間や滞留、手戻りを含めて見ることが大切です。
バリューストリームマップを使うと、どこで時間が失われているのか、どこにボトルネックがあるのか、どのムダを減らすべきかを考えやすくなります。
まずは、身近な業務を1つ選び、入口から出口までの流れを書き出してみましょう。
そして、各工程の作業時間と待ち時間を分けて見てみることが、改善の第一歩になります。