品質管理や安全管理に取り組むとき、「重大な不具合がなぜ起きるのか」「どの原因が重なると事故につながるのか」「リスクを論理的に整理したい」と感じることはないでしょうか。
問題が起きたとき、原因を思いつきで並べるだけでは、重要なつながりを見落としてしまうことがあります。
特に、事故、不具合、システム障害のように、複数の原因が組み合わさって起きる問題では、原因の関係を論理的に整理することが大切です。
そんなときに役立つのが、FTAです。
FTAは、Fault Tree Analysisの略で、日本語では故障の木解析、またはフォルトツリー解析と呼ばれます。
重大な故障や事故を起点にして、その原因を木の枝のように分解していくリスク分析のフレームワークです。
この記事では、FTAの意味、使い方、具体例、注意点までを、初心者向けにやさしく整理して解説します。
この記事でわかること
- FTAとは何か
- FTAは何に使うのか
- 故障の木解析の基本的な考え方
- FTAの使い方
- FTAの具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から複雑な論理図を作る必要はありません。まずは「FTAは、重大な問題から逆向きに原因をたどるための型だ」とつかめれば十分です。
FTAとは?
FTAとは、ある重大な故障や事故、不具合を起点にして、その原因を上から下へ論理的に分解していく分析方法です。
FTAは、Fault Tree Analysisの略です。
日本語では、故障の木解析やフォルトツリー解析と呼ばれます。
やさしく言うと、FTAは「この問題が起きるには、どんな原因や条件が必要か」を木の形で整理する方法です。
たとえば、「製品が動かない」という重大な問題があるとします。
その原因は、電源が入らないことかもしれません。
部品が故障していることかもしれません。
配線が切れていることかもしれません。
制御プログラムに不具合があることかもしれません。
FTAでは、このように最上位の問題から原因を分解し、どの条件が重なると問題が発生するのかを整理します。
一言でいうと、FTAは、重大な問題の発生原因を論理的にたどるためのリスク分析フレームワークです。
FTAは何に使うのか
FTAは、重大な故障、事故、不具合、トラブルの原因を論理的に整理したいときに使います。
特に、複数の原因が組み合わさって起きる問題や、安全性・信頼性が重要な分野で使われます。
FTAは、次のような場面で活用できます。
- 重大な故障や事故の原因を分析したいとき
- 製品や設備の安全性を評価したいとき
- システム障害の原因を整理したいとき
- 不具合の発生条件を論理的に把握したいとき
- リスクの発生経路を見える化したいとき
- 再発防止策を考えたいとき
- FMEAで見つけた重大リスクを深掘りしたいとき
たとえば、「設備が停止する」という重大な問題がある場合、原因は1つとは限りません。
電源異常、部品故障、センサー不良、操作ミス、保全不足、ソフトウェア異常など、複数の要因が関係することがあります。
FTAを使うと、こうした原因のつながりを論理的に整理できます。
どんな人に向いているか
FTAが向いているのは、次のような人です。
- 品質管理に関わる人
- 品質保証に関わる人
- 安全管理に関わる人
- 設備保全を担当している人
- 製品設計や工程設計を行う人
- 重大トラブルの原因分析をしたい人
- リスク分析や再発防止を行いたい人
FTAは、製造業や設備管理だけでなく、ITシステム、物流、医療、サービス、事務プロセスのトラブル分析にも応用できます。
FTAの基本的な考え方
FTAの基本的な考え方は、重大な問題から逆向きに原因をたどることです。
FTAでは、最初に「避けたい重大な事象」を決めます。
これをトップ事象と呼びます。
たとえば、次のようなものです。
- 設備が停止する
- 製品が動作しない
- 顧客に誤った情報を送る
- 重要データが消える
- 出荷遅れが発生する
- 重大クレームが発生する
次に、そのトップ事象が起きる原因を分解します。
原因を考えるときには、「この事象が起きるには、何が起きる必要があるか」と問いかけます。
FTAでは、原因の関係を論理的に表します。
代表的なのが、OR条件とAND条件です。
OR条件は、いずれか1つが起きれば上位の事象が起きる関係です。
たとえば、「設備停止」は「電源異常」または「主要部品故障」または「制御異常」のいずれかで起きるかもしれません。
AND条件は、複数の条件が同時に起きることで上位の事象が起きる関係です。
たとえば、「誤出荷」は「ラベル誤り」と「出荷前チェック漏れ」が同時に起きたときに発生するかもしれません。
このように、FTAでは原因の組み合わせを整理し、重大事象が発生する道筋を見える化します。
FTAの使い方
FTAは、次の流れで使うとわかりやすいです。
手順1 トップ事象を決める
最初に、分析したい重大な問題を決めます。
これがトップ事象です。
トップ事象は、できるだけ具体的に設定します。
たとえば、「品質が悪い」では広すぎます。
「出荷後に製品が動作しない」「顧客に誤った仕様書を送付する」「設備が突然停止する」のように、何が起きるのかを具体的にします。
トップ事象があいまいだと、原因分析もあいまいになります。
まずは、避けたい問題を明確にすることが大切です。
手順2 直接原因を洗い出す
次に、トップ事象が起きる直接原因を洗い出します。
たとえば、「製品が動作しない」というトップ事象なら、直接原因として次のようなものが考えられます。
- 電源が入らない
- 主要部品が故障している
- 配線が断線している
- 制御プログラムに不具合がある
- 組立ミスがある
ここでは、まず大きな原因を出します。
この段階で細かくしすぎるよりも、トップ事象を引き起こす主要な経路を整理することが大切です。
手順3 原因をさらに分解する
直接原因を出したら、それぞれの原因をさらに分解します。
たとえば、「電源が入らない」という原因がある場合、さらに次のように分解できます。
- 電源ケーブルが断線している
- 電源スイッチが故障している
- 内部基板に不具合がある
- ヒューズが切れている
「組立ミスがある」という原因なら、次のように分解できます。
- 作業手順がわかりにくい
- チェックリストがない
- 教育が不足している
- 部品が似ていて取り違えやすい
このように、原因を下位へ下位へと分解していきます。
手順4 OR条件とAND条件を整理する
FTAでは、原因同士の関係を整理することが重要です。
ある原因のうち、どれか1つでも起きれば上位の事象につながる場合は、OR条件です。
複数の条件が同時にそろったときに上位の事象につながる場合は、AND条件です。
たとえば、「誤った資料を顧客に送る」というトップ事象を考えます。
「資料が古い」または「宛先を間違える」または「添付ファイルを間違える」のどれか1つで発生するなら、OR条件です。
一方で、「資料に誤りがある」かつ「上長確認が漏れる」という2つがそろったときに発生するなら、AND条件です。
この関係を整理することで、どの組み合わせが危険なのかが見えやすくなります。
手順5 対策すべき原因を決める
原因の構造が見えてきたら、どこに対策するかを決めます。
すべての原因に同じように対策するのは難しいため、重要度や発生しやすさ、対策しやすさを見ながら優先順位を決めます。
たとえば、発生しやすく影響が大きい原因は、優先的に対策します。
また、AND条件の中で片方を確実に防げばトップ事象を防げる場合もあります。
対策には、次のようなものがあります。
- 設計を変更する
- 作業手順を見直す
- チェックリストを導入する
- ポカヨケを入れる
- 検査方法を改善する
- 教育を行う
- システムで入力制限をかける
- 承認フローを見直す
FTAは、原因を整理するだけでなく、再発防止策や予防策を考えるために使います。
FTAの具体例
ここでは、「顧客に誤った資料を送付する」という事務業務の例で、FTAの使い方を見てみます。
例 顧客に誤った資料を送付する場合
前提として、営業部門で顧客に資料を送る業務があり、誤った資料を送ってしまうリスクを分析したいとします。
トップ事象を「顧客に誤った資料を送付する」と設定します。
次に、直接原因を洗い出します。
たとえば、次のような原因が考えられます。
- 古い版の資料を送る
- 別顧客向けの資料を送る
- 添付ファイルを間違える
- 内容確認が漏れる
- 宛先を間違える
次に、それぞれの原因をさらに分解します。
「古い版の資料を送る」の原因としては、最新版の保管場所がわかりにくい、ファイル名に版数がない、古い資料が共有フォルダに残っている、などが考えられます。
「別顧客向けの資料を送る」の原因としては、資料名が似ている、顧客別フォルダが整理されていない、送付前確認がない、などが考えられます。
「内容確認が漏れる」の原因としては、チェックリストがない、上長確認が形式的、急ぎ対応で確認時間がない、などが考えられます。
次に、原因同士の関係を考えます。
たとえば、「古い資料が残っている」だけでは誤送付にならない場合があります。
そこに「送付前確認が漏れる」が重なると、顧客に古い資料を送ってしまう可能性が高まります。
このように、原因の組み合わせを整理します。
最後に、対策を考えます。
たとえば、最新版だけを置くフォルダを作る、古い資料はアーカイブに移す、ファイル名に版数と日付を入れる、送付前チェックリストを作る、重要資料はダブルチェックする、といった対策が考えられます。
別の例 設備が突然停止する場合
製造現場では、「設備が突然停止する」というトップ事象を分析できます。
直接原因としては、電源異常、主要部品の故障、センサー不良、制御プログラム異常、操作ミスなどが考えられます。
さらに、「主要部品の故障」は、摩耗、潤滑不足、過負荷、点検漏れ、部品寿命超過などに分解できます。
「操作ミス」は、手順書がわかりにくい、教育不足、表示が紛らわしい、確認不足などに分解できます。
このようにFTAを使うと、設備停止という重大な事象に対して、どの原因が関係しているかを体系的に整理できます。
対策としては、定期点検、部品交換基準の明確化、アラーム設定、操作画面の改善、教育、ポカヨケなどが考えられます。
具体例でわかるポイント
FTAの具体例からわかるポイントは、重大な問題から原因を逆向きにたどることです。
- まず避けたい重大事象を決める
- 直接原因を洗い出す
- 原因をさらに分解する
- OR条件とAND条件を整理する
- 重要な原因に対策する
FTAを使うことで、重大な問題がどのような原因の組み合わせで起こるのかを見える化できます。
FTAを使うメリット
FTAを使うメリットは、重大な問題の原因関係を論理的に整理できることです。
問題が複雑な場合、原因を思いつくままに並べるだけでは、関係性が見えにくくなります。
FTAを使うと、トップ事象から原因を分解し、発生条件を整理できます。
主なメリットは、次の通りです。
- 重大事象の原因を体系的に整理できる
- 原因の組み合わせを見える化できる
- 再発防止策を考えやすい
- 安全性や信頼性の検討に使いやすい
- チームでリスクを共有しやすい
- FMEAで見つけた重大リスクを深掘りできる
- 対策すべき原因を絞りやすい
FTAは、特に安全性や信頼性が重要なテーマで役立ちます。
また、業務ミスやシステム障害の分析にも応用できます。
FTAを使うときの注意点
FTAを使うときに注意したいのは、原因の分解が思い込みにならないようにすることです。
よくある失敗は、次のようなものです。
- トップ事象があいまい
- 原因の分解が浅い
- OR条件とAND条件を混同する
- 現場の事実を確認していない
- 図が複雑になりすぎる
- 対策につながっていない
- 一度作って見直さない
FTAは論理的に原因を整理する方法ですが、図に書いた原因がすべて正しいとは限りません。
現場確認、データ確認、過去トラブルの記録、関係者へのヒアリングなどを通じて、原因の妥当性を確認することが大切です。
また、FTAは複雑になりやすいフレームワークです。
初心者の場合は、最初から細かく分解しすぎず、重要なトップ事象を1つ選び、主要な原因から整理するとよいでしょう。
関連フレームワークとの違い
FTAと関連するフレームワークには、FMEA、特性要因図、なぜなぜ分析、ロジックツリーなどがあります。
それぞれの違いを簡単に整理します。
- FTA
重大な事象を起点に、その原因を論理的に分解する方法です。トップダウンで原因構造を見るのに向いています。 - FMEA
起こりうる故障や不具合を事前に洗い出し、影響やリスクを評価する方法です。予防的なリスク評価に向いています。 - 特性要因図
問題に対する原因候補を広く洗い出し、魚の骨のように整理する方法です。原因候補を広く出す場面に向いています。 - なぜなぜ分析
「なぜ?」を繰り返して、発生した問題の根本原因を深掘りする方法です。 - ロジックツリー
問題や要素を論理的に分解するフレームワークです。FTAよりも幅広い問題整理に使えます。
FTAは、重大なトップ事象から原因を論理的にたどることに向いています。
一方で、FMEAは起こりうる故障モードを事前に洗い出す方法です。
原因候補を広く出したいなら特性要因図、発生済み問題を深掘りしたいならなぜなぜ分析と組み合わせると効果的です。
FTAはどんな場面で使うと効果的か
FTAは、特に次のような場面で効果的です。
- 重大な事故や故障を分析したいとき
- 製品や設備の安全性を確認したいとき
- 複数原因が絡む問題を整理したいとき
- 再発防止策を考えたいとき
- システム障害の原因構造を見たいとき
- FMEAで見つけた重大リスクを深掘りしたいとき
- リスクの発生経路をチームで共有したいとき
FTAは、発生すると影響が大きい問題に向いています。
一方で、日常的な小さなミスや改善テーマを幅広く洗い出す場合には、特性要因図や3M、ECRSのほうが使いやすいこともあります。
また、FTAで原因構造を整理した後は、FMEAやポカヨケ、標準作業と組み合わせて対策を具体化するとよいでしょう。
まとめ
FTAとは、Fault Tree Analysisの略で、日本語では故障の木解析、またはフォルトツリー解析と呼ばれます。
重大な故障や事故、不具合をトップ事象として設定し、その原因を木の枝のように分解していくリスク分析のフレームワークです。
FTAを使うと、重大な問題がどのような原因や条件の組み合わせで起きるのかを整理できます。
特に、安全性、信頼性、重大不具合、システム障害、再発防止の検討に役立ちます。
大切なのは、図を作ることではありません。
トップ事象を明確にし、原因構造を整理し、重要な原因に対して対策を考えることです。
まずは、避けたい重大な問題を1つ選び、「それが起きるには何が必要か」「どの原因が重なると発生するか」を書き出してみましょう。
重大リスクを予防するための第一歩になります。