教育や人材育成を考えるときに、「何を教えるべきかは何となくわかるけれど、どう設計すればよいのかわからない」「研修はやっているのに、育成につながっている感じがしない」と感じることはないでしょうか。
人材育成は、場当たり的に講座を増やすだけでは成果につながりにくく、目的、育成対象、設計、評価までを整理する必要があります。
そんなときに役立つのが、教育や人材育成を設計するためのフレームワークです。
ただし、この分野に使える型はいくつもあります。
MVV、Will/Can/Must、ADDIE、Kirkpatrick、OKRはどれも有名ですが、初心者には違いがわかりにくいこともあります。名前だけ知っていても、どれを選べばよいかは意外と迷いやすいものです。
そこでこの記事では、教育や人材育成を設計したいときに使いやすい代表的なフレームワークを整理しながら、それぞれの役割の違い、使い分け、初心者向けの選び方をやさしく解説します。
- 教育や人材育成では何を整理すべきか
- 人材育成設計で使いやすい代表的なフレームワーク
- それぞれの違いと使い分け
- 初心者が最初に使うならどれがよいか
- 実務での組み合わせ方
最初から全部を覚える必要はありません。まずは「人材育成では何を見るのか」と「どれから使うか」がわかれば十分です。
教育や人材育成を設計したいとき、まず何を整理すべきか
教育や人材育成を設計したいとき、いきなり「この研修をやろう」と講座づくりから始めるとうまくいかないことがよくあります。
まず整理すべきなのは、次のような観点です。
- そもそも何のために育成するのか
- どんな人を対象にするのか
- 今の状態と目指す状態にどんな差があるのか
- どのように学ばせるのか
- その育成が本当に成果につながったかどうか
たとえば、研究開発職向けに知財教育を強化したい場合でも、会社として何を目指すのか、対象者にどんな能力を持ってほしいのか、今どこが不足しているのかが見えなければ、講座を増やしても散発的になりやすくなります。
この段階を飛ばしてしまうと、フレームワークを使っても表面的な運用になりやすくなります。
だからこそ、最初に「教育や人材育成では何を見るべきか」を押さえることが重要です。
教育や人材育成を設計したいときに使いやすいフレームワーク一覧
教育や人材育成を設計したいときに、特に使いやすい代表的なフレームワークは次の5つです。
- MVV
- Will/Can/Must
- ADDIE
- Kirkpatrick
- OKR
共有いただいた早見表でも、教育や人材育成を設計したいときのフレームワークとして、この5つが挙げられています。
この中で、どれが一番よいというより、人材育成のどの面を整理したいかによって向いている型が違うと考えるのがポイントです。
MVVとは
MVVは、ミッション、ビジョン、バリューの整理を通じて、育成の方向性や意味づけを明確にする型です。
教育そのものというより、何のために育てるのかをはっきりさせたいときに向いています。
たとえば、知財教育を強化したい場合でも、単に制度知識を教えるだけなのか、事業に貢献する研究者を育てたいのかでは、設計は大きく変わります。MVVを使うと、育成の上位目的を整理しやすくなります。
MVVが向いている場面
- 育成方針の軸を作りたいとき
- 教育施策の意味づけを整理したいとき
- 部門や組織の方向性と育成をつなげたいとき
MVVが向いていない場面
- 具体的な研修設計をそのまましたいとき
- 効果測定の方法を考えたいとき
Will/Can/Mustとは
Will/Can/Mustは、本人の意思、できること、求められることを整理する型です。
個人の育成テーマや、育成対象ごとの設計を考えたいときに向いています。
人材育成では、会社が求めることだけを押しつけても、本人の納得感や成長意欲が弱くなることがあります。逆に、本人の希望だけでは事業に結びつかないこともあります。Will/Can/Mustを使うと、そのバランスを見やすくなります。
Will/Can/Mustが向いている場面
- 個人育成計画を考えたいとき
- 面談やキャリア支援で整理したいとき
- 対象者ごとに育成の論点を整理したいとき
Will/Can/Mustが向いていない場面
- 研修全体の設計プロセスを考えたいとき
- 組織全体の効果測定を考えたいとき
ADDIEとは
ADDIEは、分析、設計、開発、実施、評価の流れで教育を作る型です。
研修や教材を体系的に設計したいときに向いています。
教育担当が感覚で講座を作ると、目的と内容がずれたり、評価の仕組みが弱くなったりしやすいです。ADDIEを使うと、対象者分析から実施後の評価までを流れで考えやすくなります。
ADDIEが向いている場面
- 研修やeラーニングを設計したいとき
- 教材開発を体系立てて進めたいとき
- 教育設計の標準プロセスを作りたいとき
ADDIEが向いていない場面
- 個人の育成テーマだけを整理したいとき
- 育成の上位理念だけを考えたいとき
Kirkpatrickとは
Kirkpatrickは、反応、学習、行動、成果の4段階で教育効果を見る型です。
研修や教育施策が本当に意味を持っていたかを評価したいときに向いています。
研修では、満足度だけを見て「よかった」で終わりがちですが、それだけでは現場で使われたかどうかはわかりません。Kirkpatrickを使うと、学んだか、行動が変わったか、成果につながったかまで視野を広げやすくなります。
Kirkpatrickが向いている場面
- 研修効果を評価したいとき
- 教育施策の成果を説明したいとき
- 評価指標を整理したいとき
Kirkpatrickが向いていない場面
- 研修設計そのものをゼロから作りたいとき
- 個人のキャリア希望を整理したいとき
OKRとは
OKRは、目標と主要な成果をセットで置く型です。
教育や人材育成においても、方向性と成果を見える化したいときに向いています。
たとえば、「学びたくなる環境を作る」という目標だけでは進み具合が見えにくいですが、申込者数、修了率、実務活用率などの成果指標を置くことで、推進しやすくなります。
OKRが向いている場面
- 教育テーマを重点施策として進めたいとき
- チームや部門で目線をそろえたいとき
- 成長志向の目標設定をしたいとき
OKRが向いていない場面
- 具体的な教材設計をしたいとき
- 研修評価だけを厳密に見たいとき
それぞれの違いを簡単に整理すると
ここまで紹介した5つの違いを、簡単にまとめると次のようになります。
- MVV → 育成の意味や方向性を整理する
- Will/Can/Must → 個人の育成論点を整理する
- ADDIE → 教育を設計する
- Kirkpatrick → 教育効果を評価する
- OKR → 教育テーマを目標として推進する
このように、同じ「教育や人材育成を設計したい」という用途でも、それぞれ役割が少しずつ違います。
初心者ならどれから使うべきか
初心者が最初に使うなら、まずはADDIEがおすすめです。
理由は、教育設計の流れ全体を見やすく、分析から実施、評価まで一連で整理しやすいからです。
人材育成の現場では、「とりあえず研修を作る」ではなく、「誰に何をどう学ばせ、どう確認するか」を順に考える必要があります。その点で、ADDIEは入口としてとても使いやすいです。
そのうえで、上位方針にはMVV、個人育成にはWill/Can/Must、効果測定にはKirkpatrick、重点推進にはOKRを組み合わせると強くなります。
迷ったら、まずはADDIEから始めるのがおすすめです。
実務でのおすすめの組み合わせ
実務では、フレームワークは1つだけで使うより、組み合わせたほうが力を発揮しやすいです。
たとえば、人材育成設計なら次のような組み合わせが考えられます。
パターン1
- MVVで育成の方向性を整理する
- ADDIEで研修を設計する
- Kirkpatrickで効果を評価する
パターン2
- Will/Can/Mustで個人の育成課題を整理する
- ADDIEで必要な学習機会を設計する
- OKRで重点テーマとして推進する
パターン3
- MVVで組織として育てたい人材像を整理する
- Will/Can/Mustで対象者ごとの差を見る
- Kirkpatrickで施策の成果を確認する
このように、
方向性整理 → 対象整理 → 設計 → 推進 → 評価
の流れで組み合わせると使いやすくなります。
教育や人材育成でフレームワークを使うときの注意点
注意
フレームワークは便利ですが、研修を作ること自体が目的になると、人材育成の成果にはつながりにくくなります。
教育や人材育成でよくある失敗は、次のようなものです。
- 目的が曖昧なまま講座を増やす
- 受講満足だけで終わる
- 個人の状況を見ずに一律で設計する
- 評価が弱く、改善につながらない
特に初心者は、「実施したこと」で安心しがちですが、そうではありません。大切なのは、育成したい状態に近づいたかどうかを見ることです。
まとめ
教育や人材育成を設計したいときに使うフレームワークはいくつかありますが、最初からすべてを使いこなす必要はありません。
大切なのは、人材育成のどの面を整理したいのかをはっきりさせ、その目的に合った型を選ぶことです。
今回紹介したように、
- MVVは育成の方向性を整理する
- Will/Can/Mustは個人の育成論点を見る
- ADDIEは教育を設計する
- Kirkpatrickは教育効果を評価する
- OKRは教育テーマを推進する
という違いがあります。
最初は難しく見えるかもしれませんが、まずはADDIEから使ってみてください。
大切なのは、きれいに設計することではなく、育成したい状態に近づけることです。
まずは身近なテーマで1回試してみてください。新入社員研修、研究者向け教育、営業向け基礎研修、知財教育など、小さなテーマでも十分です。
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教育や人材育成だけでなく、その前後で使う型も一緒に知っておくと、実務でさらに使いやすくなります。