新規事業や商品企画を考えるとき、「良いアイデアが思いつかない」「会議では意見が出るのに、結局ありきたりな案になる」「お客様が本当に求めているものがわからない」と悩むことはありませんか。
特に企画や新規事業では、社内の都合や技術の強みだけで考えてしまうと、顧客にとって魅力のない商品やサービスになってしまうことがあります。そこで役立つのが、デザイン思考です。
デザイン思考は、単に見た目のデザインを考える方法ではありません。顧客の困りごとや感情に深く入り込み、課題を見つけ、アイデアを出し、試作品を作り、実際に試しながら改善していく考え方です。
新規事業、商品開発、サービス改善、業務改善、人材育成など、さまざまな仕事の場面で使える実践的なフレームワークです。
この記事では、デザイン思考の意味、基本的な考え方、使い方、具体例、注意点を初心者にもわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- デザイン思考とは何か
- デザイン思考は何に使うのか
- デザイン思考の基本的な考え方
- デザイン思考の使い方
- デザイン思考の具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から完璧に使いこなす必要はありません。まずは「デザイン思考は顧客の本当の課題を見つけ、試しながら解決策を作るための型だ」とつかめれば十分です。
デザイン思考とは?
デザイン思考とは、利用者や顧客の視点に立って課題を発見し、アイデアを出し、試作と検証を繰り返しながら解決策を作っていく考え方です。
ここでいう「デザイン」は、見た目をきれいにすることだけを意味しません。顧客体験、サービスの使いやすさ、課題解決の仕組み、価値の届け方まで含めて考える広い意味のデザインです。
たとえば、ある社内システムが使いにくいとします。普通であれば「機能を追加しよう」「画面を改修しよう」と考えがちです。しかしデザイン思考では、まず利用者がどの場面で困っているのか、なぜ使いにくいと感じるのか、どんな業務上のストレスがあるのかを観察します。
そのうえで、課題を定義し、解決策を考え、小さく試し、反応を見ながら改善していきます。
初心者向けに言い換えると、デザイン思考は「作る側の思い込みではなく、使う人の困りごとから考える方法」です。
一言でいうと、デザイン思考は顧客視点で課題を発見し、試作と改善を通じて解決策を作るためのフレームワークです。
デザイン思考は何に使うのか
デザイン思考は、答えが一つに決まっていない課題を考えるときに役立ちます。
たとえば、売上を上げる方法、顧客満足度を高める方法、新しい商品を作る方法、社内業務を改善する方法などです。これらは、単純に過去のデータを見れば答えが出るものではありません。顧客や利用者の行動、感情、背景を理解しながら考える必要があります。
デザイン思考は、次のような用途で使われます。
・新商品や新サービスの企画を考える
・新規事業のアイデアを出す
・顧客の潜在ニーズを見つける
・既存サービスの不満点を改善する
・社内業務の使いにくさを解消する
・アプリやシステムのユーザー体験を改善する
・営業資料や提案内容を顧客目線で見直す
・研修や教育プログラムを受講者目線で設計する
特に重要なのは、「何を作るか」よりも先に「誰の、どんな困りごとを解決するのか」を考える点です。
どんな人に向いているか
デザイン思考は、企画職やマーケティング担当者だけのものではありません。顧客や利用者がいる仕事であれば、幅広い職種で活用できます。
次のような人に向いています。
・新規事業や新商品企画を担当している人
・顧客ニーズをうまく把握できずに悩んでいる人
・会議でアイデア出しをしても似た案ばかりになる人
・既存サービスの改善を任されている人
・営業やカスタマーサポートで顧客の声を扱う人
・社内システムや業務フローを改善したい人
・研修や教育コンテンツを受講者目線で作りたい人
・技術や製品ありきではなく、市場起点で考えたい人
デザイン思考は、特別なセンスがある人だけが使うものではありません。むしろ、思い込みを外し、顧客の声を丁寧に拾うための実務的な考え方です。
デザイン思考の基本的な考え方
デザイン思考の基本は、顧客や利用者を中心に考えることです。
一般的な企画では、社内の強み、既存技術、売りたい商品、過去の成功事例から発想することがあります。もちろん、それらも重要です。しかし、それだけでは顧客にとって本当に価値のあるものになるとは限りません。
デザイン思考では、次のような流れで考えます。
共感
まず、顧客や利用者の状況、行動、感情を理解します。インタビュー、観察、アンケート、現場同行などを通じて、表面的な要望だけでなく、その奥にある困りごとを探ります。
たとえば「もっと安くしてほしい」という声があったとしても、本当の課題は価格ではなく、効果が見えにくいことや、社内で購入理由を説明しにくいことかもしれません。
定義
次に、集めた情報をもとに、本当に解くべき課題を定義します。
ここで重要なのは、「売上が低い」「利用率が低い」といった企業側の課題だけで止めないことです。顧客側から見て、どのような不便、不安、面倒、迷いがあるのかを言語化します。
発想
定義した課題に対して、解決策のアイデアを出します。
この段階では、最初から正解を一つに絞ろうとしません。できるだけ多くの案を出し、自由に発想することが大切です。現実的かどうかの判断は、後の段階で行います。
試作
有望なアイデアを、簡単な形で試作品にします。
試作品といっても、完成品である必要はありません。紙のスケッチ、画面イメージ、説明資料、簡単な動画、モックアップ、仮のサービスページなどでも構いません。
テスト
試作品を顧客や利用者に見せ、反応を確認します。
ここでは、褒めてもらうことが目的ではありません。どこがわかりにくいか、どこに不安を感じるか、本当に使いたいと思うかを確認し、改善につなげます。
デザイン思考の使い方
手順1 顧客や利用者を決める
最初に、誰のために考えるのかを明確にします。
「お客様全体」「社員全体」のように広く考えすぎると、課題がぼやけてしまいます。できるだけ具体的に、どのような人が対象なのかを決めます。
たとえば、新しい営業支援ツールを考える場合、「営業部門」だけでは広すぎます。「入社3年目までの若手営業担当」「既存顧客を多く抱える法人営業担当」「外出が多く、移動中に情報確認したい営業担当」のように具体化します。
対象者を明確にすると、観察すべき行動や聞くべき質問も見えやすくなります。
手順2 顧客の行動と感情を観察する
次に、対象者がどのような行動をしているのかを観察します。
インタビューだけでなく、実際の作業風景、購入までの流れ、問い合わせ内容、利用ログ、営業現場での会話などを見ることが大切です。
人は、自分の困りごとを正確に言葉にできないことがあります。そのため、「何が欲しいですか」と聞くだけでは不十分です。
たとえば、社内研修を改善したい場合、受講者に「どんな研修がよいですか」と聞くよりも、実際にどのタイミングで学習が止まるのか、どの資料で迷うのか、どの説明がわかりにくいのかを見る方が有効です。
手順3 解くべき課題を定義する
観察した情報をもとに、本当に解くべき課題を整理します。
このとき、「顧客は何に困っているのか」「なぜそれが問題なのか」「解決できるとどんな価値があるのか」を考えます。
たとえば、「営業資料が使われていない」という現象があったとします。企業側から見ると「営業資料の利用率が低い」という問題です。しかし顧客や利用者である営業担当から見ると、「商談相手ごとにどの資料を使えばよいかわからない」「資料を探す時間がない」「説明の流れが作りにくい」という課題かもしれません。
このように、現象をそのまま課題にせず、人の行動や感情に落とし込んで定義することが重要です。
手順4 解決アイデアを広く出す
課題が定義できたら、解決アイデアを出します。
この段階では、すぐに実現可能性で絞り込まず、まずは幅広く考えます。会議では、批判よりも量を重視します。
たとえば、「若手営業が商談準備に時間をかけすぎている」という課題であれば、次のような案が考えられます。
・商談タイプ別の資料セットを作る
・顧客業界別の提案テンプレートを用意する
・過去の成功提案を検索できる仕組みを作る
・ベテラン営業の準備プロセスを動画化する
・商談前チェックリストを作る
・生成AIで提案書のたたき台を作れるようにする
最初から一つの正解を探すのではなく、選択肢を広げることが大切です。
手順5 小さく試して改善する
最後に、アイデアを小さな形で試します。
いきなり本格的なシステム開発や大規模投資をする必要はありません。まずは簡単な資料、試作ページ、簡易テンプレート、手作業による仮運用などで十分です。
たとえば、商談準備支援ツールを作る前に、まずはExcelやPowerPointで簡単な業界別テンプレートを作り、数人の営業担当に使ってもらうことができます。
その反応を見て、使いやすい点、使われない理由、追加すべき情報を確認します。改善を繰り返すことで、顧客や利用者に本当に合った解決策に近づいていきます。
デザイン思考の具体例
例 新しい社内研修を企画する場合
ある会社で、若手社員向けの知的財産研修を企画するとします。
従来は、制度説明を中心にした座学研修を行っていました。しかし受講後のアンケートでは、「重要なのはわかったが、自分の仕事にどう関係するかわからない」という声が多くありました。
このとき、デザイン思考を使うと、まず若手社員の行動や悩みを観察します。
たとえば、研究開発部門の若手社員は、実験データの扱い、発明提案書の書き方、論文発表と特許出願の順番、秘密保持の判断などで迷っているかもしれません。営業部門の若手社員は、顧客との会話でどこまで技術情報を話してよいか不安に感じているかもしれません。
そこで課題を、「知財制度を知らないこと」ではなく、「自分の業務場面で、どのような知財リスクや相談タイミングがあるのか判断できないこと」と定義します。
そのうえで、具体的な業務シーン別のケース教材を作り、少人数に試してもらいます。反応を見ながら、説明の順番や事例の粒度を改善します。
このようにすると、単なる知識提供ではなく、受講者が実務で使える研修に近づけることができます。
別の例 新規事業アイデアを考える場合
化学メーカーが、環境配慮型の新素材を使った新規事業を考えるとします。
技術部門としては、「高機能な素材ができたので、何かに使えないか」と考えがちです。しかしデザイン思考では、まず顧客側の課題から出発します。
たとえば、食品メーカー、包装材メーカー、物流会社、小売業などに話を聞きます。その結果、「環境対応は必要だが、コストが上がると採用しにくい」「既存設備で加工できない素材は使いにくい」「環境性能を消費者に説明しにくい」といった課題が見えてくるかもしれません。
そこで課題を、「環境性能が高い素材を売ること」ではなく、「顧客企業が既存工程を大きく変えずに、環境対応を説明しやすくすること」と定義します。
そのうえで、素材そのものだけでなく、加工条件、導入手順、表示文言、比較データ、営業資料まで含めた提案パッケージを試作します。
このように、技術起点ではなく顧客課題起点で考えることで、事業化の可能性が高まります。
具体例でわかるポイント
デザイン思考の具体例からわかるポイントは、課題の捉え方を変えることです。
「研修をわかりやすくする」「素材を売る」と考えるだけでは、提供側の視点に寄りがちです。しかし、受講者や顧客の行動を観察すると、実際には別のところに課題があることがわかります。
具体例から学べるポイントは次の通りです。
・顧客や利用者の発言だけでなく、行動を見ることが重要
・表面的な要望の奥に、本当の課題がある
・課題定義を間違えると、解決策もずれてしまう
・完成品を作る前に、小さく試すことで失敗コストを下げられる
・顧客の反応を見ながら改善することで、実務に合った形になる
デザイン思考では、最初のアイデアが正しいとは考えません。試しながら学ぶ姿勢が重要です。
デザイン思考を使うメリット
デザイン思考を使うメリットは、顧客にとって価値のある解決策を作りやすくなることです。
社内だけで企画を考えると、どうしても作る側の都合が入りやすくなります。機能を増やす、性能を上げる、資料を詳しくするなど、提供側にとっての改善に偏ることがあります。
しかし、顧客や利用者の視点から考えることで、本当に必要な機能や体験に近づけます。
主なメリットは次の通りです。
・顧客の本当の困りごとを見つけやすくなる
・思い込みだけで企画を進めるリスクを減らせる
・新規事業や商品企画のアイデアが出しやすくなる
・試作と検証により、大きな失敗を避けやすくなる
・部門を超えた議論がしやすくなる
・利用者目線で業務改善を進められる
・顧客満足度やユーザー体験の向上につながる
特に新規事業では、最初から正解を当てることは難しいものです。デザイン思考を使うことで、早く試し、早く学び、早く修正する流れを作れます。
デザイン思考を使うときの注意点
デザイン思考は便利なフレームワークですが、使い方を間違えると効果が出にくくなります。
特に注意したいのは、「顧客の声を聞くこと」と「顧客の言う通りにすること」は違うという点です。
顧客は、自分の困りごとを正確に言語化できるとは限りません。また、欲しいと言ったものが、本当に使われるとも限りません。だからこそ、発言だけでなく行動や背景を見る必要があります。
よくある失敗例は次の通りです。
・顧客インタビューをしただけで満足してしまう
・一部の声を全体のニーズだと思い込む
・課題定義をせず、すぐにアイデア出しに入る
・実現しやすい案だけを最初から選んでしまう
・試作品を作らず、いきなり本格開発してしまう
・テストで悪い反応が出ても、計画を変えない
・見た目のデザイン改善だけだと誤解する
・顧客視点を重視しすぎて、事業性や収益性を見落とす
デザイン思考は、自由な発想だけで成り立つものではありません。顧客理解、課題定義、試作、検証を丁寧に行うことで効果を発揮します。
関連フレームワークとの違い
デザイン思考と似た場面で使われるフレームワークはいくつかあります。ここでは、代表的なものとの違いを整理します。
ダブルダイヤモンドとの違い
ダブルダイヤモンドは、課題発見と解決策創出を「発散」と「収束」の流れで整理するフレームワークです。
デザイン思考が顧客理解から試作・検証までの考え方全体を示すのに対して、ダブルダイヤモンドは思考プロセスの構造を見える化するのに向いています。
デザイン思考を進めるときの全体地図として、ダブルダイヤモンドを併用するとわかりやすくなります。
リーンスタートアップとの違い
リーンスタートアップは、仮説を立て、MVPを作り、計測し、学習することで事業を改善していく考え方です。
デザイン思考が顧客の課題発見やアイデア創出に強いのに対して、リーンスタートアップは事業仮説の検証と改善に強みがあります。
新規事業では、まずデザイン思考で顧客課題を深く理解し、その後リーンスタートアップで事業仮説を検証する流れが効果的です。
Jobs to Be Doneとの違い
Jobs to Be Doneは、顧客が商品やサービスを「どんな仕事を片づけるために使うのか」に注目する考え方です。
デザイン思考は顧客の行動、感情、体験を広く理解するのに対して、Jobs to Be Doneは顧客が達成したい目的に焦点を当てます。
たとえば、顧客はドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだという考え方が代表的です。デザイン思考の課題定義を深めるときに、Jobs to Be Doneは役立ちます。
バリュープロポジションキャンバスとの違い
バリュープロポジションキャンバスは、顧客の課題、得たい価値、自社の提供価値を整理するためのフレームワークです。
デザイン思考が課題発見から試作・検証までのプロセスであるのに対して、バリュープロポジションキャンバスは顧客課題と提供価値の適合を整理する道具です。
デザイン思考で得た顧客理解を、事業アイデアとして整理する段階で使うと効果的です。
MVPとの違い
MVPは、Minimum Viable Productの略で、顧客に価値を届けられる最小限の製品やサービスを意味します。
デザイン思考では試作やテストを行いますが、MVPは特に事業検証のための最小限の形に焦点を当てます。
デザイン思考の試作段階で、MVPの考え方を取り入れると、過剰な作り込みを避けることができます。
デザイン思考はどんな場面で使うと効果的か
デザイン思考は、顧客や利用者の課題がはっきり見えていない場面で効果を発揮します。
反対に、すでに原因が明確で、作業手順も決まっている問題には、別の改善手法の方が向いている場合もあります。
デザイン思考が効果的な場面は次の通りです。
・新規事業のテーマを考えるとき
・新商品や新サービスの企画を始めるとき
・顧客の潜在ニーズを探りたいとき
・既存サービスの利用率を改善したいとき
・顧客満足度やユーザー体験を高めたいとき
・社内システムの使いにくさを改善したいとき
・研修や教育プログラムを受講者目線で見直したいとき
・営業資料や提案プロセスを顧客目線で改善したいとき
・技術起点のアイデアを市場起点に変換したいとき
特に、顧客が自分でも明確に言語化できていない不満や願望を見つけたいときに有効です。
まとめ
デザイン思考とは、顧客や利用者の視点に立って課題を発見し、アイデアを出し、試作と検証を繰り返しながら解決策を作るためのフレームワークです。
単に見た目をきれいにする方法ではなく、人の行動、感情、困りごとに注目して、より価値のある商品、サービス、業務改善を生み出す考え方です。
デザイン思考の基本は、共感、定義、発想、試作、テストです。最初から完璧な答えを出すのではなく、顧客の反応を見ながら改善していくことが大切です。
新規事業、商品企画、サービス改善、社内研修、業務改善など、答えが一つに決まっていない仕事では、デザイン思考が大きな助けになります。
まずは、いま考えている企画について「これは誰の、どんな困りごとを解決するものか」を一文で書き出すところから始めてみましょう。
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