人材育成や評価制度を考えるとき、「成果を出す人は何が違うのか」「評価基準をどう具体化すればよいか」「求める人材像を行動レベルで示したい」と感じることはないでしょうか。
人事評価や育成では、単に「主体性がある」「リーダーシップがある」「問題解決力が高い」といった言葉だけでは、具体的に何をすればよいのかが伝わりにくい場合があります。
そこで役立つのが、コンピテンシーモデルです。
コンピテンシーモデルは、高い成果を出している人に共通する行動特性を整理し、評価、育成、採用、配置などに活用するフレームワークです。
この記事では、コンピテンシーモデルの意味、使い方、具体例、注意点までを、初心者向けにやさしく整理して解説します。
この記事でわかること
- コンピテンシーモデルとは何か
- コンピテンシーモデルは何に使うのか
- 高成果者の行動特性とは何か
- コンピテンシーモデルの使い方
- コンピテンシーモデルの具体例
- 関連フレームワークとの違い
最初から立派な人事制度を作る必要はありません。まずは「コンピテンシーモデルは、成果につながる行動を見える化するための型だ」とつかめれば十分です。
コンピテンシーモデルとは?
コンピテンシーモデルとは、高い成果を出している人に共通する行動特性を整理したものです。
コンピテンシーとは、成果につながる行動特性や能力のことです。
やさしく言うと、コンピテンシーモデルは「成果を出す人が、実際にどのように考え、どのように行動しているか」を整理するフレームワークです。
たとえば、「リーダーシップがある人」と言っても、具体的な行動は人によって解釈が異なります。
ある人は、強く指示を出すことをリーダーシップだと考えるかもしれません。
別の人は、メンバーの意見を引き出して合意形成することをリーダーシップだと考えるかもしれません。
コンピテンシーモデルでは、こうした抽象的な能力を、実際の行動として表現します。
たとえば、「関係者の意見を整理し、合意形成を行う」「困難な状況でも目的を示し、チームを前進させる」といった形です。
一言でいうと、コンピテンシーモデルは、成果を出すために必要な行動を具体化するための人材育成フレームワークです。
コンピテンシーモデルは何に使うのか
コンピテンシーモデルは、人材育成、評価、採用、配置、昇格、管理職育成などで使います。
特に、求める人材像や評価基準を具体的にしたいときに役立ちます。
コンピテンシーモデルは、次のような場面で活用できます。
- 高成果者の行動特性を整理したいとき
- 評価基準を具体化したいとき
- 人材育成の目標を明確にしたいとき
- 採用面接の評価軸を作りたいとき
- 昇格要件を整理したいとき
- 管理職に求める行動を明確にしたいとき
- 組織に必要な人材像を言語化したいとき
たとえば、「主体性」を評価項目に入れる場合、単に主体性と書くだけでは評価者によって判断がばらつきます。
そこで、「自ら課題を見つけ、関係者に働きかけ、改善案を実行する」のように行動で表すと、評価や育成に使いやすくなります。
どんな人に向いているか
コンピテンシーモデルが向いているのは、次のような人です。
- 人事評価制度を設計する人
- 人材育成を担当する人
- 管理職育成を行う人
- 採用基準を整理したい人
- 部下の成長課題を具体化したい管理職
- 組織に必要な人材像を考える人
- 高成果者の特徴を言語化したい人
コンピテンシーモデルは、人事制度だけでなく、日常の育成面談や1on1でも使いやすい考え方です。
コンピテンシーモデルの基本的な考え方
コンピテンシーモデルの基本的な考え方は、成果を生む行動に注目することです。
人材評価では、性格や印象だけで判断してしまうことがあります。
たとえば、「あの人は積極的だ」「この人はリーダー向きだ」といった表現です。
しかし、印象だけでは評価がばらつきます。
また、本人にとっても何を改善すればよいのかがわかりにくくなります。
コンピテンシーモデルでは、成果を出している人の具体的な行動に注目します。
たとえば、成果を出す営業担当者であれば、次のような行動があるかもしれません。
- 顧客の表面的な要望だけでなく、背景にある課題を聞き出す
- 商談前に業界情報や顧客情報を調べる
- 社内の技術部門を早めに巻き込む
- 提案後のフォローを継続する
- 失注理由を分析し、次の提案に活かす
このように、成果につながる行動を整理することで、評価や育成に使いやすくなります。
コンピテンシーモデルは、能力を抽象的な言葉で終わらせず、行動として表すことがポイントです。
コンピテンシーモデルの使い方
コンピテンシーモデルは、次の流れで使うとわかりやすいです。
手順1 対象となる職種や階層を決める
まず、どの職種や階層のコンピテンシーモデルを作るのかを決めます。
対象が広すぎると、行動特性があいまいになります。
たとえば、次のように対象を決めます。
- 若手社員
- 中堅社員
- 管理職
- 営業職
- 研究開発職
- 人事職
- プロジェクトリーダー
- 経営候補人材
職種や階層によって、成果につながる行動は異なります。
営業職の高成果行動と、研究開発職の高成果行動は同じではありません。
まずは、対象を明確にすることが大切です。
手順2 高成果者の行動を観察する
次に、対象となる職種や階層で高い成果を出している人の行動を観察します。
ここで大切なのは、成果そのものではなく、成果につながった行動を見ることです。
たとえば、営業成績が高い人がいる場合、単に売上が高いという結果を見るだけでは不十分です。
どのように顧客と関係を作っているのか、どのように提案を準備しているのか、どのように社内調整しているのかを確認します。
行動を整理するときは、次のような問いが役立ちます。
- 成果を出している人は、普段どのように行動しているか
- 困難な場面でどのような対応をしているか
- 周囲とどのように関わっているか
- どのように考え、判断しているか
- 他の人と違う行動は何か
高成果者へのインタビュー、上司や同僚へのヒアリング、過去の成功事例の分析などが役立ちます。
手順3 行動特性を分類する
高成果者の行動を集めたら、似たもの同士に分類します。
たとえば、次のような分類が考えられます。
- 課題発見
- 顧客志向
- 実行力
- 巻き込み力
- 学習力
- リーダーシップ
- 問題解決力
- 変革志向
- 育成力
分類名は、抽象的でも構いません。
ただし、その下に具体的な行動を必ず書くことが重要です。
たとえば、「顧客志向」という項目を作るなら、具体的には「顧客の要望だけでなく背景にある課題を確認する」「顧客の利用場面を想像して提案する」などの行動で表現します。
手順4 行動レベルで定義する
次に、各コンピテンシーを行動レベルで定義します。
ここが最も重要です。
「主体性」「リーダーシップ」「問題解決力」といった言葉だけでは、評価や育成には使いにくいです。
具体的な行動として定義する必要があります。
たとえば、「主体性」を次のように定義できます。
- 指示を待つだけでなく、自ら課題を見つける
- 必要な情報を集め、改善案を提案する
- 関係者に働きかけ、行動に移す
- 結果を振り返り、次の改善につなげる
このように行動で表すと、本人も何を伸ばせばよいかがわかりやすくなります。
手順5 評価や育成に活用する
最後に、作成したコンピテンシーモデルを評価や育成に活用します。
たとえば、次のように使えます。
- 評価項目として使う
- 1on1で行動を振り返る
- 研修テーマにする
- 採用面接の質問項目にする
- 昇格要件に反映する
- 管理職育成の基準にする
- OJTの育成項目にする
コンピテンシーモデルは、作って終わりではありません。
実際の人材育成や評価の場面で使い、必要に応じて見直すことが大切です。
コンピテンシーモデルの具体例
ここでは、「研究開発職のコンピテンシーモデル」を例に考えてみます。
例 研究開発職のコンピテンシーモデル
前提として、化学メーカーの研究開発職で、高成果者の行動特性を整理するとします。
まず、研究開発職の成果として、新技術の創出、開発テーマの推進、事業化への貢献、知的財産の創出、他部門連携などが考えられます。
高成果者の行動を観察すると、次のような特徴が見つかるかもしれません。
- 技術課題を事業課題と結びつけて考える
- 実験結果から仮説を立て直す
- 失敗データも次の検討に活かす
- 特許や論文を調べ、技術の位置づけを把握する
- 製造、営業、知財など他部門を早めに巻き込む
- 顧客用途や市場ニーズを意識してテーマを進める
これらを分類すると、次のようなコンピテンシー項目になります。
- 技術探究力
- 仮説検証力
- 事業視点
- 知財意識
- 部門横断連携
- 学習力
- 課題設定力
たとえば、「事業視点」を行動で定義すると、次のようになります。
「技術的な面白さだけでなく、顧客価値、事業性、量産可能性、競合との差別化を考えながら研究テーマを進める」
このように、職種に合わせて具体化すると、人材育成や評価に使いやすくなります。
別の例 管理職のコンピテンシーモデル
管理職の場合、高成果者の行動特性は次のように整理できます。
- チームの目標を明確に伝える
- 部下の強みと課題を把握する
- 業務の優先順位を判断する
- 関係部署と調整して成果につなげる
- 問題が起きたときに原因を整理し、再発防止を進める
- 部下に適切なフィードバックを行う
- 組織全体の視点で意思決定する
これらを分類すると、次のようなコンピテンシーになります。
- 目標設定力
- 部下育成力
- 課題解決力
- 組織調整力
- 意思決定力
- チームマネジメント
- 変革推進力
管理職育成では、これらのコンピテンシーを研修や1on1、評価面談に活用できます。
具体例でわかるポイント
コンピテンシーモデルの具体例からわかるポイントは、能力を行動で表すことです。
- 高成果者の行動を観察する
- 成果につながる行動を分類する
- 抽象的な能力名に具体行動を紐づける
- 職種や階層に合わせて定義する
- 評価、育成、採用に活用する
コンピテンシーモデルは、求める人材像を実際の行動として示すために役立ちます。
コンピテンシーモデルを使うメリット
コンピテンシーモデルを使うメリットは、評価や育成を具体的な行動に基づいて行いやすくなることです。
人材育成では、抽象的な言葉だけでは、本人が何を伸ばせばよいのかがわかりにくい場合があります。
コンピテンシーモデルを使うと、期待する行動を明確にできます。
主なメリットは、次の通りです。
- 高成果者の行動を見える化できる
- 評価基準を具体化できる
- 育成テーマを明確にしやすい
- 採用基準を整理しやすい
- 昇格要件を説明しやすい
- 上司と部下の認識をそろえやすい
- 組織に必要な人材像を共有しやすい
コンピテンシーモデルは、評価のためだけでなく、育成や組織づくりにも活用できます。
コンピテンシーモデルを使うときの注意点
コンピテンシーモデルを使うときに注意したいのは、抽象的な言葉だけで終わらせないことです。
よくある失敗は、次のようなものです。
- ありきたりな能力項目だけを並べる
- 自社や職種に合っていない
- 行動ではなく性格や印象で定義している
- 評価者によって解釈がばらつく
- 高成果者の実際の行動を見ていない
- 作って終わりになり育成に使われない
- 項目が多すぎて運用できない
たとえば、「挑戦」「主体性」「協調性」といった言葉だけを並べても、具体的な行動がなければ運用しにくくなります。
また、他社のコンピテンシーモデルをそのまま使うと、自社の文化や職種に合わない場合があります。
コンピテンシーモデルは、自社の成果や職種の実態に合わせて作ることが大切です。
関連フレームワークとの違い
コンピテンシーモデルと関連するフレームワークには、カッツモデル、Will / Can / Must、MBO、9ボックスなどがあります。
それぞれの違いを簡単に整理します。
- コンピテンシーモデル
高成果者の行動特性を整理するフレームワークです。評価、育成、採用で求める行動を具体化するのに向いています。 - カッツモデル
仕事に必要な能力を、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つで整理するフレームワークです。階層別育成に向いています。 - Will / Can / Must
本人の希望、能力、組織期待を整理するフレームワークです。キャリア面談や育成テーマの設定に向いています。 - MBO
目標管理のフレームワークです。個人目標を設定し、評価や育成につなげる場面で使われます。 - 9ボックス
成果とポテンシャルの2軸で人材を分類するフレームワークです。配置や育成対象の検討に使います。
コンピテンシーモデルは、求める行動を具体化するためのフレームワークです。
カッツモデルで能力分類を整理し、コンピテンシーモデルで具体行動に落とし込み、MBOや評価制度で運用すると整理しやすくなります。
コンピテンシーモデルはどんな場面で使うと効果的か
コンピテンシーモデルは、特に次のような場面で効果的です。
- 評価基準を具体化したいとき
- 高成果者の行動を共有したいとき
- 管理職育成の基準を作りたいとき
- 採用面接の評価軸を整えたいとき
- 昇格要件を明確にしたいとき
- 部下の育成課題を具体化したいとき
- 組織に必要な人材像を言語化したいとき
コンピテンシーモデルは、人材育成と評価をつなげたい場面に向いています。
一方で、個人の希望やキャリアを整理する場合はWill / Can / Must、階層別に必要能力を大きく整理する場合はカッツモデルを組み合わせると効果的です。
まとめ
コンピテンシーモデルとは、高い成果を出している人に共通する行動特性を整理するフレームワークです。
コンピテンシーとは、成果につながる行動特性や能力のことです。
コンピテンシーモデルを使うと、求める人材像を抽象的な言葉ではなく、具体的な行動として表現できます。
そのため、人事評価、人材育成、採用、昇格、管理職育成などに活用しやすくなります。
大切なのは、高成果者の実際の行動を見ることです。
「主体性」「リーダーシップ」「問題解決力」といった言葉だけで終わらせず、どのような行動が成果につながるのかを具体的に示す必要があります。
まずは、自分の組織で成果を出している人を思い浮かべ、「その人はどのような行動をしているのか」を書き出してみましょう。
それが、コンピテンシーモデルづくりの第一歩になります。
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