商品やサービスを改善するとき、「どの機能を追加すればお客様に喜ばれるのか」「どこまで品質を高めればよいのか」と迷うことがあります。機能を増やせば必ず満足度が上がるとは限りませんし、逆に、できていて当たり前のことができていないだけで、大きな不満につながることもあります。
たとえば、ホテルで清潔な部屋が用意されていることは、多くの利用者にとって当たり前です。清潔だからといって大きな感動にはなりにくいですが、清潔でなければ強い不満になります。一方で、予想外の心配りや便利なサービスがあると、「また使いたい」と感じることがあります。
このように、顧客満足にはいくつかの種類があります。そこで役立つのが、Kanoモデルです。Kanoモデルは、商品やサービスの品質要素を、顧客満足との関係で分類するフレームワークです。
Kanoモデルを使うと、単に機能を増やすのではなく、「最低限満たすべき品質」「高めるほど満足度が上がる品質」「あると感動につながる品質」を分けて考えられます。商品企画、サービス改善、顧客満足向上、UX改善、品質管理などで活用しやすい考え方です。
この記事でわかること
・Kanoモデルとは何か
・Kanoモデルは何に使うのか
・Kanoモデルの基本的な考え方
・Kanoモデルの使い方
・Kanoモデルの具体例
・関連フレームワークとの違い
最初から完璧に使いこなす必要はありません。まずは「Kanoモデルは顧客満足につながる品質の種類を整理するための型だ」とつかめれば十分です。
Kanoモデルとは?
Kanoモデルとは、商品やサービスの品質要素を、顧客満足や不満足との関係で分類するフレームワークです。日本の品質管理研究者である狩野紀昭氏によって提唱された考え方として知られています。
Kanoモデルでは、品質要素を主に次のように分類します。
・当たり前品質
・一元的品質
・魅力品質
・無関心品質
・逆品質
この中でも、初心者がまず押さえたいのは、当たり前品質、一元的品質、魅力品質の3つです。
当たり前品質とは、あって当然、できていて当然と顧客が感じる品質です。満たしていても大きな満足にはなりにくいですが、不足すると強い不満につながります。
一元的品質とは、良ければ良いほど満足度が上がり、悪ければ悪いほど不満が増える品質です。たとえば、処理速度、価格、耐久性、配送スピードなどが該当します。
魅力品質とは、なくても大きな不満にはなりにくいものの、あると顧客が喜び、感動や差別化につながる品質です。予想外の便利機能、気の利いたサービス、デザイン性、特別な体験などが該当します。
一言でいうと、Kanoモデルは、顧客満足につながる品質を種類ごとに分け、商品やサービス改善の優先順位を考えるためのフレームワークです。
Kanoモデルは何に使うのか
Kanoモデルは、商品やサービスの品質要素を整理し、どこに力を入れるべきかを判断するために使います。
主な用途は次のとおりです。
・顧客満足に影響する要素を整理する
・商品やサービスの改善ポイントを見つける
・新機能やサービス追加の優先順位を決める
・顧客不満の原因を分析する
・競合との差別化ポイントを考える
・最低限満たすべき品質を明確にする
・魅力的な体験や付加価値を設計する
・品質改善とコストのバランスを考える
・顧客アンケートの結果を整理する
・UX改善や商品企画の議論に使う
特に効果的なのは、「機能を増やしているのに、顧客満足が上がらない」と感じるときです。その場合、魅力品質を増やす前に、当たり前品質に問題がある可能性があります。
どんな人に向いているか
Kanoモデルは、次のような人に向いています。
・商品企画やサービス企画を担当している人
・顧客満足度を高めたい人
・品質改善や業務改善に関わる人
・新機能の優先順位を決めたい人
・UXや顧客体験を改善したい人
・顧客アンケートを活用したい人
・競合との差別化を考えたい人
・営業やカスタマーサポートで顧客の声を扱う人
・新規事業や新サービスを検討している人
Kanoモデルは、製造業の商品開発だけでなく、Webサービス、社内システム、教育研修、BtoBサービス、店舗運営など、幅広い分野で使えます。
Kanoモデルの基本的な考え方
Kanoモデルの基本は、「品質が高ければ必ず満足度が上がる」と単純に考えないことです。
顧客満足には、品質要素の種類によって異なる反応があります。ある品質は、できていて当然と思われます。ある品質は、良くなればなるほど満足度が上がります。別の品質は、予想外に提供されることで強い満足や感動を生みます。
当たり前品質
当たり前品質とは、顧客が当然あるべきだと考える品質です。
たとえば、次のようなものです。
・ホテルの部屋が清潔である
・ECサイトで注文した商品が届く
・アプリが基本的に動作する
・食品が安全である
・問い合わせに最低限対応してもらえる
・社内システムにログインできる
・研修資料に明らかな誤字や誤情報がない
当たり前品質は、満たしていても大きな感動にはなりにくいです。しかし、不足すると大きな不満につながります。
そのため、当たり前品質は「差別化のため」というより、「信頼を失わないため」に重要です。ここが崩れている状態で魅力品質を追加しても、顧客満足は上がりにくくなります。
一元的品質
一元的品質とは、良くなれば満足度が上がり、悪くなれば不満が増える品質です。
たとえば、次のようなものです。
・価格が安い
・処理速度が速い
・配送が早い
・バッテリーが長持ちする
・画質が良い
・サポートの回答が早い
・資料がわかりやすい
・研修の実務活用度が高い
一元的品質は、競争上わかりやすい要素です。顧客も比較しやすく、競合との差が見えやすい特徴があります。
ただし、一元的品質を高め続けるには、コストや工数がかかることがあります。たとえば、配送をさらに早くする、サポート時間をさらに短くする、機能をさらに高めるには、追加投資が必要になる場合があります。
魅力品質
魅力品質とは、なくても大きな不満にはならないものの、あると顧客が強く喜ぶ品質です。
たとえば、次のようなものです。
・予想外の便利機能
・気の利いた提案
・使っていて楽しいデザイン
・個別に最適化されたおすすめ
・購入後の丁寧なフォロー
・ちょっとしたプレゼントや特典
・学習者のつまずきに合わせた補足コンテンツ
・社内システムで面倒な入力を自動補完してくれる機能
魅力品質は、差別化やファン化につながりやすい要素です。顧客が「これは便利」「よくわかっている」「他とは違う」と感じるきっかけになります。
ただし、魅力品質は時間が経つと当たり前品質になることがあります。以前は魅力的だった機能でも、競合が真似し、顧客が慣れると「あるのが当たり前」になります。
無関心品質
無関心品質とは、あってもなくても顧客満足にあまり影響しない品質です。
企業側は重要だと思っていても、顧客にとっては関心が薄い要素もあります。このような要素に過度な投資をすると、コストが増える一方で満足度向上にはつながりにくくなります。
逆品質
逆品質とは、あることでかえって不満につながる品質です。
たとえば、企業側は親切だと思って追加した通知機能が、顧客にとってはしつこいと感じられる場合があります。また、高機能化しすぎて操作が複雑になると、便利なはずの機能が逆に不満を生むこともあります。
Kanoモデルの使い方
手順1 商品やサービスの品質要素を洗い出す
まず、対象となる商品やサービスについて、品質要素を洗い出します。
品質要素とは、顧客が評価するポイントのことです。機能、価格、使いやすさ、デザイン、サポート、納期、信頼性、説明のわかりやすさ、安心感などが含まれます。
たとえば、社内研修であれば、次のような品質要素が考えられます。
・内容が実務に役立つ
・資料がわかりやすい
・講師の説明が聞き取りやすい
・受講時間が適切である
・オンデマンドで見られる
・確認テストがある
・事例が自社業務に近い
・受講履歴が自動で記録される
最初はできるだけ幅広く洗い出すことが大切です。
手順2 顧客や利用者の期待を考える
次に、顧客や利用者が何を期待しているのかを考えます。
このとき、提供者側の思い込みだけで判断しないことが重要です。社内の担当者が「これは魅力的だ」と思っていても、顧客にとっては当たり前かもしれません。逆に、企業側が小さな改善だと思っていることが、顧客にとって大きな魅力になることもあります。
顧客の期待を把握する方法には、次のようなものがあります。
・顧客アンケート
・インタビュー
・問い合わせ内容の分析
・クレーム分析
・営業担当者からの聞き取り
・カスタマーサポートの記録
・利用データの分析
・競合サービスのレビュー確認
Kanoモデルでは、顧客視点で品質要素を分類することが重要です。
手順3 品質要素を分類する
洗い出した品質要素を、当たり前品質、一元的品質、魅力品質、無関心品質、逆品質に分類します。
初心者は、まず次の3つを中心に考えると使いやすいです。
・できていないと不満になるものは、当たり前品質
・良くなるほど満足度が上がるものは、一元的品質
・なくても困らないが、あると喜ばれるものは、魅力品質
たとえば、ECサイトであれば、注文した商品が正しく届くことは当たり前品質です。配送が早いことは一元的品質です。購入履歴から便利な使い方を提案してくれる機能は、魅力品質になる可能性があります。
手順4 改善の優先順位を考える
分類ができたら、改善の優先順位を考えます。
基本的には、まず当たり前品質を満たすことが重要です。基本品質に問題があると、いくら魅力的な機能を追加しても不満が残ります。
次に、一元的品質を改善します。顧客が比較しやすく、満足度に直結しやすい要素だからです。
そのうえで、魅力品質を設計します。魅力品質は差別化につながりますが、当たり前品質が不足している状態では効果が出にくくなります。
優先順位の基本は次のとおりです。
・当たり前品質の欠陥をなくす
・一元的品質を競合水準以上に高める
・魅力品質で差別化する
・無関心品質への過剰投資を減らす
・逆品質になっている要素を見直す
手順5 時間の変化も踏まえて見直す
Kanoモデルでは、品質要素が時間とともに変化する点も重要です。
以前は魅力品質だったものが、時間が経つと一元的品質や当たり前品質になることがあります。たとえば、スマートフォンの顔認証やオンライン配送追跡などは、登場当初は魅力的に感じられましたが、現在では多くの顧客にとって当たり前に近くなっています。
そのため、Kanoモデルは一度作って終わりではありません。顧客の期待、競合状況、技術の進化に合わせて定期的に見直す必要があります。
Kanoモデルの具体例
例 社内eラーニングを改善する場合
ある会社で、社員向けのeラーニング教材を改善するとします。目的は、受講率を高め、現場で使える学びにつなげることです。
この場合、当たり前品質には、教材が正しく再生される、誤字や誤情報が少ない、受講履歴が記録される、期限内に受講できる、ログインに大きな問題がないといった要素が入ります。これらができていないと、受講者は不満を持ちます。
一元的品質には、説明がわかりやすい、動画時間が適切である、実務に役立つ、確認テストが理解を助ける、スマートフォンでも見やすいといった要素が入ります。これらは良くなるほど満足度が上がります。
魅力品質には、自分の職種に合った事例が表示される、つまずきやすいポイントを補足してくれる、短時間で復習できる要約コンテンツがある、受講後に実務で使えるテンプレートがもらえるといった要素が考えられます。なくても受講自体はできますが、あると「便利」「使いやすい」と感じてもらえます。
このように整理すると、まず再生不具合や受講履歴の問題をなくし、次に教材のわかりやすさを高め、最後に職種別コンテンツやテンプレート提供で魅力を高める、という改善順序を考えられます。
別の例 BtoB製品の顧客満足を高める場合
BtoB製品を提供している企業が、顧客満足度を高めたいとします。
当たり前品質には、製品が仕様通りに動く、納期を守る、品質不良が少ない、安全性が確保されている、契約条件に沿って対応する、といった要素が入ります。これらは満たしていて当然と見なされやすく、不足すると信頼を大きく損ないます。
一元的品質には、性能が高い、価格競争力がある、技術サポートが早い、改善提案が具体的である、供給安定性が高いといった要素が入ります。これらは競合比較の対象になりやすく、改善すれば満足度向上につながります。
魅力品質には、顧客の用途に合わせた技術提案、将来の規制動向を踏まえた先回り提案、顧客の開発部門向け勉強会、トラブル予防のためのデータ提供などがあります。顧客が想定していなかった価値を提供できれば、単なる取引先ではなく、信頼できるパートナーとして見てもらいやすくなります。
この例では、品質安定や納期遵守といった当たり前品質を守ったうえで、性能やサポートを高め、さらに顧客の事業に踏み込んだ提案を行うことが重要になります。
具体例でわかるポイント
具体例からわかるポイントは次のとおりです。
・顧客満足には複数の種類がある
・当たり前品質が不足すると、大きな不満につながる
・一元的品質は競合比較されやすい
・魅力品質は差別化やファン化につながる
・魅力品質を追加する前に、基本品質を整える必要がある
・顧客の期待は時間とともに変化する
・提供者側の思い込みではなく、顧客視点で分類することが大切
Kanoモデルを使うメリット
Kanoモデルを使うメリットは、顧客満足を単純な「良い・悪い」ではなく、品質の種類ごとに整理できることです。
主なメリットは次のとおりです。
・顧客満足に影響する要素を整理できる
・最低限満たすべき品質が明確になる
・顧客不満の原因を見つけやすくなる
・新機能や改善施策の優先順位を決めやすい
・差別化につながる魅力品質を考えやすい
・過剰品質や無駄な投資を減らしやすい
・顧客視点で商品やサービスを見直せる
・品質改善、商品企画、UX改善に活用できる
特に大きなメリットは、「何を改善すれば顧客が喜ぶのか」を整理できる点です。企業側が良いと思う改善と、顧客が本当に満足する改善は必ずしも同じではありません。Kanoモデルを使うことで、そのずれに気づきやすくなります。
Kanoモデルを使うときの注意点
Kanoモデルを使うときは、いくつか注意点があります。
よくある失敗例は次のとおりです。
・提供者側の思い込みだけで品質分類をする
・当たり前品質を軽視して、魅力品質ばかり追う
・顧客層による違いを考えない
・時間の変化による期待水準の変化を見落とす
・無関心品質に過剰投資してしまう
・高機能化しすぎて逆品質を生んでしまう
・顧客の声を十分に集めずに判断する
・分類して終わりで、改善優先順位に落とし込まない
特に注意したいのは、顧客層による違いです。同じ機能でも、初心者には魅力品質になり、上級者には当たり前品質になる場合があります。たとえば、簡単な操作ガイドは初心者にとって魅力的でも、上級者にとっては不要に感じられるかもしれません。
また、魅力品質は時間とともに変化します。今は差別化になる機能でも、数年後には業界標準になることがあります。そのため、Kanoモデルは定期的に見直すことが重要です。
関連フレームワークとの違い
Kanoモデルと関連するフレームワークには、RICE、ICE、費用対効果分析、意思決定マトリクス、ABC分析などがあります。
RICEとの違い
RICEは、Reach、Impact、Confidence、Effortで施策の優先順位を決めるフレームワークです。対象範囲や工数を含めて比較できる点が特徴です。
Kanoモデルは、品質要素が顧客満足にどう影響するかを分類するためのフレームワークです。改善施策の優先順位を数値化したい場合はRICE、顧客満足の種類を整理したい場合はKanoモデルが向いています。
ICEとの違い
ICEは、Impact、Confidence、Easeで施策を簡易的に評価するフレームワークです。スピーディーに優先順位を付けたいときに使います。
Kanoモデルは、施策そのものよりも、商品やサービスの品質要素を分類します。どの品質要素が当たり前品質で、どれが魅力品質なのかを理解したうえで、ICEを使って具体的な施策を評価することもできます。
費用対効果分析との違い
費用対効果分析は、かかるコストに対して得られる効果を比較する方法です。投資判断や改善施策の評価に向いています。
Kanoモデルは、費用や効果の金額換算よりも、顧客満足との関係を重視します。何に投資すべきかを顧客満足の観点で整理したい場合はKanoモデル、投資対効果を比較したい場合は費用対効果分析が向いています。
意思決定マトリクスとの違い
意思決定マトリクスは、複数案を複数の評価基準で比較するフレームワークです。評価基準を自由に設定できます。
Kanoモデルは、品質要素を顧客満足の種類で分類する考え方です。複数案を評価する前に、どの要素が顧客満足にどう影響するかを整理するために使えます。その後、意思決定マトリクスで施策案を比較すると、判断がしやすくなります。
ABC分析との違い
ABC分析は、売上、金額、件数、重要度などをもとに対象をA、B、Cに分類するフレームワークです。在庫管理、顧客管理、商品管理などで使われます。
Kanoモデルは、顧客満足に対する品質要素の性質を分類します。数値の大きさで重点対象を決めるならABC分析、満足や不満の発生メカニズムを理解したいならKanoモデルが向いています。
Kanoモデルはどんな場面で使うと効果的か
Kanoモデルは、次のような場面で使うと効果的です。
・商品やサービスの改善点を整理するとき
・顧客満足度を高めたいとき
・新機能の優先順位を考えるとき
・顧客アンケートの結果を解釈するとき
・競合との差別化要素を考えるとき
・品質改善テーマを決めるとき
・UXや顧客体験を見直すとき
・BtoBサービスの提供価値を整理するとき
・社内システムや研修コンテンツの改善を考えるとき
・過剰品質や不要機能を見直したいとき
特におすすめなのは、顧客の声を分類するときです。顧客からの要望をすべて同じように扱うのではなく、それが当たり前品質なのか、一元的品質なのか、魅力品質なのかを考えることで、改善の意味が見えやすくなります。
まとめ
Kanoモデルは、商品やサービスの品質要素を、顧客満足との関係で分類するフレームワークです。
顧客満足を高めるには、単に機能を増やせばよいわけではありません。まず、できていて当然の当たり前品質を満たし、次に良くなるほど満足度が上がる一元的品質を高め、そのうえで差別化につながる魅力品質を設計することが大切です。
また、顧客の期待は時間とともに変化します。以前は魅力的だった機能が、今では当たり前になっていることもあります。まずは、自社の商品、サービス、研修、業務システムなどを1つ選び、顧客や利用者が評価する要素を当たり前品質、一元的品質、魅力品質に分けてみましょう。
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