研究開発や製品開発では、「作ってみたら不具合が出た」「量産直前に重大な問題が見つかった」「顧客先でトラブルが起きてから原因を調べることになった」ということがあります。
もちろん、開発では未知のことが多いため、すべての問題を事前に完全に防ぐことはできません。しかし、よく起こりそうな不具合や、起きると影響が大きいリスクを早めに洗い出しておけば、対策を打てる可能性は高くなります。
そこで役立つのが、FMEAです。
FMEAは、製品や工程、システムに起こり得る故障や不具合を事前に洗い出し、その影響や原因、対策を整理するためのフレームワークです。日本語では、故障モード影響解析と呼ばれます。
FMEAを使うと、「どこで失敗が起こりそうか」「失敗するとどんな影響があるか」「何を優先して対策すべきか」を整理できます。
特に、研究開発・技術開発では、試作段階、量産準備段階、工程設計、品質保証、顧客評価前などに活用すると効果的です。
この記事でわかること
・FMEAとは何か
・FMEAは何に使うのか
・FMEAの基本的な考え方
・FMEAの使い方
・FMEAの具体例
・関連フレームワークとの違い
最初から完璧に使いこなす必要はありません。まずは「FMEAは起こり得る不具合を事前に洗い出し、対策の優先順位を決めるための型だ」とつかめれば十分です。
FMEAとは?
FMEAとは、Failure Mode and Effects Analysisの略で、日本語では故障モード影響解析と呼ばれます。
製品、部品、工程、システムなどについて、どのような故障や不具合が起こり得るかを洗い出し、その影響、原因、発生しやすさ、検出しやすさ、対策を整理する手法です。
初心者向けに言い換えると、FMEAは「トラブルが起きる前に、起こりそうな失敗を先回りして考える方法」です。
たとえば、新しい製品を開発するときに、「この部品が割れるかもしれない」「この接着部が剥がれるかもしれない」「この工程で異物が混入するかもしれない」「この条件では性能が安定しないかもしれない」といった不具合を事前に考えます。
そして、それぞれについて、次のように整理します。
・どんな不具合が起こるか
・その不具合が起こると何に影響するか
・なぜその不具合が起こるか
・どれくらい重大か
・どれくらい起こりやすいか
・発生前または出荷前に見つけられるか
・どの対策を優先すべきか
一言でいうと、FMEAは製品や工程の不具合リスクを事前に洗い出し、重要なリスクから対策するためのフレームワークです。
FMEAは何に使うのか
FMEAは、開発や製造のリスクを事前に洗い出し、品質トラブルを予防するために使います。
研究開発や技術開発では、新しい材料、新しい構造、新しい工程、新しい使い方に挑戦することが多くあります。そのため、従来品では起きなかった不具合が発生する可能性があります。
FMEAを使うことで、開発の早い段階からリスクを見える化し、設計変更、評価試験、工程管理、検査方法、顧客説明などにつなげられます。
主な用途は次の通りです。
・製品や工程の不具合リスクを洗い出す
・起こり得る故障モードを整理する
・重大なリスクを優先的に対策する
・設計段階で品質問題を予防する
・量産前に工程リスクを確認する
・評価試験や検査項目を決める
・顧客クレームの再発防止を考える
・開発部門、製造部門、品質保証部門の認識を合わせる
・安全性、信頼性、品質の説明材料にする
FMEAは、問題が起こってから原因を調べるためだけのものではありません。むしろ、問題が起こる前にリスクを想定し、予防するために使うことが重要です。
どんな人に向いているか
FMEAは、製品開発、工程設計、品質管理、研究開発に関わる人に向いています。
・新製品開発を担当する人
・試作品の不具合リスクを整理したい人
・量産前に工程リスクを確認したい人
・品質保証や品質管理に関わる人
・製造工程のトラブルを予防したい人
・開発段階で評価項目を決めたい人
・顧客クレームの再発防止を考える人
・安全性や信頼性を重視する製品を扱う人
・設計、製造、品質部門の連携を強めたい人
特に、製品や工程が複雑で、失敗したときの影響が大きい場合に有効です。
たとえば、自動車部品、医療機器、化学品、電子部品、設備、ソフトウェア、業務システムなど、幅広い分野で使えます。
FMEAの基本的な考え方
FMEAの基本は、「故障モード」「影響」「原因」「評価」「対策」を整理することです。
故障モードとは、起こり得る不具合の形です。たとえば、割れる、漏れる、剥がれる、変色する、固まらない、過熱する、停止する、誤作動する、入力ミスが起きる、データが消えるなどです。
影響とは、その故障モードが起きたときに、顧客、製品、工程、安全性、品質、コスト、納期などにどのような問題が起こるかです。
原因とは、その故障モードを引き起こす要因です。設計条件、材料特性、工程条件、作業ミス、環境条件、部品ばらつき、管理不足などが原因になります。
FMEAでは、それぞれの故障モードについて、一般的に次のような観点で評価します。
・重大度:起きたときの影響はどれほど大きいか
・発生度:どれくらい起こりやすいか
・検出度:出荷前や使用前に見つけやすいか
これらを点数化し、リスクの大きさを評価する方法もあります。よく知られているのが、重大度、発生度、検出度を掛け合わせてリスク優先数を出す考え方です。
ただし、初心者は最初から厳密な点数にこだわりすぎる必要はありません。まずは、「重大な影響がある不具合は何か」「起こりやすい不具合は何か」「見つけにくい不具合は何か」を整理するだけでも効果があります。
FMEAの使い方
手順1 対象を決める
まず、FMEAの対象を決めます。
対象が広すぎると、故障モードが多くなりすぎて整理しきれません。製品全体、部品、工程、システム、作業プロセスなど、どこを対象にするかを明確にします。
たとえば、次のように対象を決めます。
・新製品の主要部品
・試作品の接着工程
・量産時の混合工程
・社内システムの申請フロー
・顧客に納入する材料の保管条件
・検査工程の判定方法
初心者は、まず重要な部品や工程に絞って始めるとよいでしょう。
手順2 故障モードを洗い出す
次に、対象に対して起こり得る故障モードを洗い出します。
故障モードは、「何がどう失敗するか」を具体的に書きます。抽象的に「品質不良が起きる」と書くのではなく、「接着部が剥がれる」「膜厚が規格より薄い」「異物が混入する」「硬化不良が起きる」のように表現します。
洗い出しのときは、過去の不具合、クレーム、試作トラブル、類似製品の問題、工程担当者の経験、顧客の使い方などを参考にします。
複数部門で考えることも重要です。研究開発だけでは気づかないリスクを、製造、品質保証、営業、サービス部門が知っている場合があります。
手順3 影響を整理する
故障モードを洗い出したら、それが起きたときの影響を整理します。
影響は、顧客にとっての影響と、社内にとっての影響の両方を見るとよいでしょう。
たとえば、接着部が剥がれる場合、顧客側では製品の破損、作業停止、安全上の問題が起こるかもしれません。社内側では、返品、クレーム対応、信用低下、再検査、補償費用が発生する可能性があります。
影響を整理するときは、次の観点が役立ちます。
・安全性への影響
・製品機能への影響
・顧客作業への影響
・品質保証への影響
・コストへの影響
・納期への影響
・ブランド、信用への影響
・法規制や契約への影響
影響が大きい故障モードほど、優先して対策すべき候補になります。
手順4 原因を整理する
次に、その故障モードがなぜ起こるのかを考えます。
原因は、設計、材料、工程、設備、人、環境、管理方法など、さまざまな観点から洗い出します。
たとえば、「接着部が剥がれる」という故障モードであれば、原因として次のようなものが考えられます。
・接着剤の選定が不適切
・表面処理が不十分
・塗布量が少ない
・硬化温度が低い
・硬化時間が不足している
・使用環境の温度が高い
・相手材との相性が悪い
・保管中に接着剤が劣化している
原因を具体的に書くことで、対策も具体化できます。
手順5 リスクを評価する
故障モード、影響、原因を整理したら、リスクを評価します。
代表的な評価軸は次の3つです。
・重大度:起きたときの影響の大きさ
・発生度:どれくらい起こりやすいか
・検出度:起きる前、または出荷前に見つけられるか
たとえば、重大な安全問題につながる不具合は、発生頻度が低くても重視すべきです。また、発生しやすく、しかも検査で見つけにくい不具合も危険です。
点数化する場合は、1〜5点や1〜10点で評価することがあります。ただし、点数の正確さにこだわりすぎると議論が進まなくなります。
初心者は、まず次のような分類でも十分です。
・最優先で対策すべきリスク
・早めに対策すべきリスク
・監視しながら管理するリスク
・現時点では優先度が低いリスク
重要なのは、対策の優先順位を決めることです。
手順6 対策を決める
最後に、重要なリスクに対して対策を決めます。
対策には、故障を起こりにくくする対策と、故障を早く見つける対策があります。
たとえば、接着部が剥がれるリスクに対しては、次のような対策が考えられます。
・接着剤の種類を見直す
・表面処理条件を標準化する
・塗布量を管理する
・硬化温度と硬化時間を規定する
・耐久試験を追加する
・作業手順書を整備する
・工程内検査を追加する
・保管条件を見直す
対策を決めるときは、担当者、期限、確認方法まで決めることが重要です。FMEAは、表を作るだけでは意味がありません。実際の設計変更、工程改善、試験追加、検査強化につなげてこそ効果があります。
FMEAの具体例
例 新しい樹脂部品を開発する場合
自動車向けの新しい樹脂部品を開発する場合を考えます。
対象は、エンジンルーム周辺で使われる樹脂部品だとします。この部品には、耐熱性、強度、寸法安定性、耐薬品性などが求められます。
故障モードとして、次のようなものが考えられます。
・高温環境で変形する
・取り付け部が割れる
・薬品により劣化する
・寸法が変化して組み付け不良が起こる
・振動で亀裂が入る
・長期使用で強度が低下する
たとえば、「高温環境で変形する」という故障モードについて考えます。
影響は、部品の機能低下、周辺部品との干渉、顧客先での不具合、場合によっては安全上の問題です。原因としては、材料の耐熱性不足、設計肉厚の不足、使用温度条件の見積もり不足、熱履歴評価不足などが考えられます。
対策としては、耐熱グレードの材料を選定する、熱変形温度を評価する、実使用条件に近い耐久試験を行う、設計形状を見直す、といった対応が考えられます。
このようにFMEAを使うと、開発初期の段階でリスクを整理し、必要な評価や設計対策を決めやすくなります。
別の例 社内システム開発の場合
FMEAは、製造業の製品だけでなく、社内システムや業務プロセスにも使えます。
たとえば、社内の契約申請システムを開発する場合を考えます。
故障モード、つまり起こり得る問題として、次のようなものがあります。
・申請内容が入力漏れになる
・承認者が間違って設定される
・添付ファイルが失われる
・差し戻し理由が伝わらない
・承認状況が見えない
・権限のない人が閲覧できてしまう
・システム障害で申請が止まる
たとえば、「承認者が間違って設定される」という故障モードでは、影響として、契約確認が遅れる、本来確認すべき部門が確認できない、法務リスクや知財リスクが見落とされる、という問題が考えられます。
原因としては、申請者が承認ルートを手入力している、部署ごとのルールが複雑、マスターデータが更新されていない、システム上の入力補助が不十分、などが考えられます。
対策としては、承認ルートの自動設定、部署マスターの定期更新、必須チェック、承認者確認画面の追加、差し戻し時のコメント必須化などが考えられます。
このように、FMEAは「失敗が起きたときの影響を事前に考える」ための方法なので、製品開発以外にも応用できます。
具体例でわかるポイント
具体例からわかるポイントは次の通りです。
・故障モードは具体的に書くほど対策しやすい
・影響を考えることでリスクの重大さが見える
・原因を分解すると具体的な対策につながる
・製品、工程、システム、業務プロセスに応用できる
・開発初期に使うと手戻りを減らしやすい
・複数部門で行うと抜け漏れが減る
FMEAは、問題が起きた後に責任を追及するためのものではありません。問題が起きる前に、関係者で知恵を出し合ってリスクを下げるための道具です。
FMEAを使うメリット
FMEAを使うメリットは、不具合やトラブルを事前に予防しやすくなることです。
開発が進んでから問題が見つかると、設計変更、試作やり直し、工程変更、顧客説明、納期遅延など、大きな負担が発生します。FMEAを早い段階で実施すれば、こうした手戻りを減らせる可能性があります。
主なメリットは次の通りです。
・起こり得る不具合を事前に洗い出せる
・重大なリスクを優先的に対策できる
・開発後半の手戻りを減らしやすい
・評価試験や検査項目を決めやすい
・品質トラブルの予防につながる
・部門間でリスク認識を共有できる
・顧客や監査への説明材料になる
・再発防止や設計標準化に活用できる
FMEAは、品質を「検査で守る」のではなく、「設計や工程の段階で作り込む」ための考え方に近いものです。
FMEAを使うときの注意点
FMEAを使うときは、形式的な表作成で終わらせないことが重要です。
よくある失敗例は次の通りです。
・過去のFMEA表をコピーして終わる
・故障モードが抽象的すぎる
・重大度、発生度、検出度の点数付けだけに時間を使う
・対策が「注意する」「確認する」だけで具体性がない
・担当者や期限が決まっていない
・開発、製造、品質保証が一緒に議論していない
・実際の設計変更や工程改善につながらない
・一度作ったFMEAを更新しない
特に注意したいのは、FMEAを「提出資料」にしてしまうことです。FMEAは、完成した表そのものよりも、リスクを議論し、重要な対策を決めるプロセスに価値があります。
また、FMEAは一度作って終わりではありません。試作結果、顧客評価、量産立ち上げ、クレーム情報などを反映して更新することで、より実務に役立つものになります。
関連フレームワークとの違い
FMEAと関連するフレームワークには、QFD、品質表、DOE、パラメータ設計、ステージゲートなどがあります。
QFDは、顧客要求を技術特性に変換するフレームワークです。FMEAが「どこで失敗が起きるか」を考えるのに対し、QFDは「顧客価値を実現するために何を重視するか」を考えます。
品質表は、QFDで使われる道具で、顧客要求と技術特性の関係を整理します。品質表で重視すべき技術特性が分かった後、その技術特性に関わる故障リスクをFMEAで確認する、といった使い方ができます。
DOEは、実験計画法です。複数の要因が結果に与える影響を効率よく調べるために使います。FMEAでリスクの原因が見つかった後、その原因の影響度を確認したり、条件を最適化したりするためにDOEを使えます。
パラメータ設計は、ばらつきや外乱に強い設計条件を見つける考え方です。FMEAでばらつきによる不具合リスクを洗い出し、その後にパラメータ設計で安定した条件を探す流れが考えられます。
ステージゲートは、開発テーマを段階的に評価するフレームワークです。FMEAは、ステージゲートの中で、試作前、量産前、顧客評価前などのリスク確認に活用できます。
FMEAはどんな場面で使うと効果的か
FMEAは、開発や製造で不具合を事前に防ぎたい場面で効果的です。
活用場面としては、次のようなものがあります。
・新製品開発の設計段階
・試作品を顧客評価に出す前
・量産工程を立ち上げる前
・工程変更や材料変更を行うとき
・重要部品や安全部品を設計するとき
・顧客クレームの再発防止を考えるとき
・品質監査や顧客説明の準備をするとき
・社内システムや業務プロセスのリスクを確認するとき
・新規設備や新しい作業手順を導入するとき
特に、「失敗したときの影響が大きいもの」「後から修正するとコストが大きいもの」「顧客や安全に影響するもの」には、FMEAが有効です。
まとめ
FMEAは、製品、工程、システム、業務プロセスに起こり得る不具合を事前に洗い出し、その影響や原因を整理して、重要なリスクから対策するためのフレームワークです。
研究開発や技術開発では、不確実性が高く、思わぬトラブルが起こることがあります。FMEAを使うことで、開発初期からリスクを見える化し、評価試験、設計変更、工程管理、検査方法の検討につなげることができます。
重要なのは、FMEA表を作ることではなく、関係者でリスクを議論し、具体的な対策を実行することです。
まずは、自分の担当している製品や業務について、「起こったら困る不具合」を5つ書き出し、その影響と原因を考えるところから始めてみましょう。
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